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林檎亭

(´・ω・`)やぁ。 ようこそ林檎亭へ。

第二話-セカンドアルテミス-【Blue Arcadia】

2010.04.16

category : Blue Arcadia 本編

<宇宙世紀 0087 3月>
【ラグランジュ3宙域】

「ルナツー到着予定時刻まで、あと30分です。」

モニターの航路図を見ながら、ユキホが言った。

「ありがとうございます。では、そろそろ着替えてきます。不測の事態も起きないでしょうし、指揮はユキホに任せます。」

「ええっ!?でも、私なんかが」

「貴女なら大丈夫です。不安ならチハヤ大尉を呼びなさい。」

「はぁ……」

弱々しく答えるユキホを尻目に、シジョウは艦橋のドアをくぐり、消えていった。

それと入れ代わりに、チハヤが艦橋に入ってくる。

「チハヤちゃん!」

「ユキホ、今中佐が出ていったけど……」

「……着替えてくる、って……」

「まぁ、あの恰好でルナツー司令に会うわけにはいかないものね。」

漂ってきた羽の扇を的確に艦長席へと投げ返し、肩をすくめるチハヤ。

「で、チハヤちゃんはどうしてブリッジに?」

「今回ルナツーに寄るのは、MSの性能評価報告のためだもの。私がいないと意味が無いじゃない。」

「あ、そっか。」

MSの事はMS隊に。シジョウの口癖である。

「ルナツーまで、あとどれくらい?」

「あと20分。レーザー回線用意しとかなきゃ。」





<10分前>
【ルナツー司令部】

「エゥーゴ主力艦隊、予定通りこちらに向かっています!」

若い将校が司令部の扉を開け、高座に座る若い男性に言った。

「あまり大きい声で言わんでくれ、ティターンズに知られればまずい。」

ただの黒い影に見えない事もないルナツー司令、タカギが顔をしかめる。

「了解です。」

将校は微笑んで敬礼、指令室の自分の席に着いた。

「旗艦アーガマを先頭に、8隻。エゥーゴ艦隊編成は予定通りです。」

「アーガマ、ルナツーでのスイングバイ軌道に乗りました!我が防空圏内まで、あと10分!」

メインモニターに、ルナツーを周回して方向転換をする艦隊軌道が映し出される。

「よし、警戒態勢をイエローからレッドに移行。総員、第一種戦闘配置!」

[エゥーゴ艦隊、なおも停止する気配無し。繰り返す、総員、第一種戦闘配備!]

[各員、砲座につけ!]

ルナツー基地全体に警報が鳴り響くが、人の流れは変わらない。

「……連邦本部に事実が露呈すれば、軍法会議ものだな。」

「この基地に、裏切る人間なんていやしませんよ。」

渋い顔をするタカギに、オペレーター席に座る男がほほ笑みかける。

「すまんな。」

タカギは苦笑し、通話機を手に取って咳ばらい、

「サラミス、マゼラン、第3ゲートより順次発進!」

手を振りかざして怒鳴る。

「第3ゲート、改修中のため現在使用不能です!」

切迫した声で怒鳴り返すオペレーター。

「第2ゲートは!」

「使用は可能ですが、艦隊すべてに方向転換用の推進剤を注入するとなると……」

「どれくらいかかる!?」

「ざっと30分は!」

「ええい、よりによって艦隊演習の直後に……!」

歯を食いしばり、椅子の肘置きを叩くタカギ。だが、その口元は笑っていた。

「敵艦隊予測進路詳細、出ました!30分後には殿の艦が軌道変更終了……ダメです、迎撃間に合いません!」

「間に合うか間に合わないかじゃない、間に合わせるんだ!全艦、第2ゲートからの発進急がせ!」

「了解!全艦第2ゲートへ、プロペラント注入開始します!」

オペレーターの怒号を最後に、指令室に静寂が訪れる。

「これで大丈夫……か。」

どっと脱力し、タカギは椅子に崩れた。

「お疲れ様です、司令。」

そばにいた男が、軽く敬礼する。

「どうにも嘘をつくのは苦手でね、ひやひやしたよ。」

苦笑いするタカギ。

「名演技でしたよ、司令!」

オペレーター席の男も、冷やかすように言う。

「ありがとう。……これで、何事も起こらなければいいのだが……」





「ルナツー、かぁ………」

モンデンキント艦橋。暗闇に埋もれて見えないルナツーの方向を見て、赤いエゥーゴの制服に身を包んだハルカは言った。

「あの時以来かぁ、チハヤに会ってないのは。」

同じく、黒の制服を纏ったマコトが呟く。

「星の屑のソロモン襲撃のすぐ後だよね。」

「地球の防衛を強化する、とかで。こっちは大変だったのに。」

苦笑し、肩をすくめるマコト。

「ユキホも、元気なのかなぁ……」

だがすぐに真剣な顔になり、左手に見える地球を眺める。

「終戦後、私たちが宇宙に上がったすぐ後に親族が見つかった、って聞いたけど………」

艦長席に座ったアズサも、心配そうな顔で言った。

「チハヤちゃん……ユキホちゃん……」





「誰……?」

同刻、オーバーマスターの更衣室。制服に袖を通し、まさに着ようとしていたところで、不意に顔を挙げるミキ。

「どうしたー?」

私服をロッカーに直しもせずに宙に放置、キャミソール一丁のヒビキが言う。

「誰か……呼んでるの?」

「何も聞こえないぞー?」

目を閉じるミキに、首をかしげるヒビキ。

「違うの……」

はだけた胸元で祈るように手を合わせる。

「チハヤさんみたいに……まっすぐで……でも、あたたかかい……」

寝言のように呟くミキ。

「何か、分かるのか?」

知り合ったときから、ミキにはこういうところがあった。

……ずっと宇宙暮らしだったから、なんて、ジオンの理想みたいなことは信じたくないけど……

しかし、ミキに妙な能力があるのも事実。

すると、

「……敵なの。」

顔を上げ、ミキが言った

「チハヤさんとシジョウ中佐に言いに行かなきゃ!」

そのまま、制服の前を留めもせず更衣室を飛び出した。

「ちょ、おい、ミキ!?」

ヒビキは慌ててキャミソール一丁の体を制服で隠し、手を伸ばすがミキはすでに居ない。

「ああっ、もうっ!」

舌打ち、乱暴に服に袖を通し、ヒビキも更衣室を後にした。




「チハヤさんっ!」

艦橋のドアが高圧空気の音と共に開き、黄色い毛玉が転がり込んできた。

「ミキ!」

前がはだけ、下着モロ見えで宙を舞うミキに、チハヤが悲鳴に近い声を上げる。

「あなたなんて格好で……!」

天井近くを舞うミキを捕まえ、ボタンを留めようとするチハヤ。

「敵が!敵が来るの!」

「敵……?」

真剣な顔で訴えるミキに、チハヤは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに頷いた。

ニュータイプ。かつての親友がそうであったように、彼女もまた。

だとすれば敵はエゥーゴ。ミキがどれほど敏感でも、ミノフスキー粒子の薄いこの宙域で感知できる規模の敵意は、ガンダムMk=Ⅱを奪った連中くらい。

彼らが月に向かうにしろ、他のサイドに向かうにしろ。

「ユキホ、ルナツー軌道周辺を最大望遠で映して!」

「分かった!」

中央モニターに映る、ルナツーと周りの星々。

その中に、チラリと光る一筋の光。

「見つけた……!」

Mk=Ⅱ奪還に貢献できるかもしれない。その期待に、目が光るチハヤ。

「解析終了、サラミス、マゼラン、じゃあアーガマ………とも違う、該当データ無し、もしかして、エゥーゴの新造艦……?」

「何事です!?」

その時、艦橋の入口に仁王立ちする銀と紫紺の影。

「シジョウ中佐!」

「着替え終わってみれば、ヒビキは廊下を文字通り飛んでいってましたし、他の船員は呆然と立ち尽くしていますし……」

「中佐、敵艦です。」

ため息と共に言うシジョウを半ば無視、チハヤが言った。

「……詳しく。」

母親のような顔から司令官のそれに切り替わり、シジョウは言う。

「ルナツーを挟んで反対側の空域に、識別不能のノズル光を確認しました。」

先ほどの画像をメインモニターに映しだし、ユキホが言った。

「分かりました。ルナツーから、艦艇が発進する気配は。」

「今の所ないです……」

「ルナツーにレーザー通信回線を開いて下さい。ルナツーのお偉方はいざこざを起こしたくないようですが、Mk=Ⅱを強奪した部隊ならそうもいきません。」

「分かりました。」

シジョウの指示通り、用意していたレーザー回線を開放、ルナツーに繋ぐユキホ。




「レーザー通信、受信!ティターンズ所属アレキサンドリア級、『オーバーマスター』……!?」

ルナツー司令室。額に汗を浮かべ、オペレーターが叫んだ。

「まさか、予定より半日も早いぞ!」

タカギも驚き、首を振る。

「間違いありませんよ!どうします、無視を……」

「いや、さすがにそれはまずい。通信を開いてくれ。」

「……了解。」

中央モニターに、制服を纏ったシジョウの姿が映し出される。

[こちら、『オーバーマスター』艦長のタカネ・シジョウ中佐です。ルナツー司令、タカギ中将閣下でいらっしゃいますね?]

「ああ。」

[こちらから、貴殿の基地のNフィールドに識別不能のノズル光を確認いたしました。そちらでもお気づきになっている筈ですが。]

「認識はしている。だが、艦隊演習を行ったばかりで艦隊の推進剤も少なく、最寄のゲートの改修を始めてしまっている。方向転換を行った上での戦闘機動を行うには………」

[では、こちらで支援を行います。上手くいけば、殿りの艦なら捕らえられると存じますが。]

「………了解した。」

[こちらからはMS隊を発進させます。敵艦隊の情報提供をお願いします。]



[敵艦隊は全部で5隻。ルナツーから送られてきた予想進路からして、今から発進して間に合うのは最後の1隻だけだけど………]

0087において完全な旧式ともいえる半天モニターに、ユキホの不安げな顔が映し出される。

「それだけで十分よ。」

セッティングを行いながら、チハヤは言った。

「ミキ、ヒビキ、用意は良い!?」

[いつでも大丈夫なの!]

[こっちも大丈夫だぞー!]

通信モニターに、ガッツポーズのヒビキとミキが映る。

[チハヤちゃん……無理、しないでね………]

「分かってる。ユキホを一人にしとくのは不安だもの。」

弱々しく言うユキホに、チハヤは微笑んでモニターを弾く。

[チハヤちゃん………]

[もうっ、チハヤさん、ノンビリしてたら逃げられちゃうの!]

「分かってるわよ。」

チハヤの声で、カラカラと格納庫のハッチが開いていく。

カタパルトデッキ表面、通常の2本のカタパルトに加え、艦の下側に追加カタパルト、計3本のカタパルトに、カスタマイズされたジム・クゥエルが現れる。

背中の上方に突き出るように装着された、巨大な追加スラスター。

腰の近くには、一年戦争後期のジオン軍MSに見られた、スラスター兼用のプロペラントタンクが。

[チハヤ・キサラギ!]
[ミキ・ホシイ!]
[ヒビキ・ガナハ!]

構えを取る3人、シジョウが扇を前に突き出した。

「フェアリー隊、発進!」

[[[行きます!]]]





「2時の方向、敵影ですっ!」

モンデンキント艦橋、ヤヨイが叫んだ。

「嘘!?」

艦長たるアズサよりも早く身を乗り出したのは、ハルカ。

「本当よ。発進時の噴射だけで数は分からないけど、恐らくMS……」

画像解析を進めながらコトリが言う。

「艦の軌道は、予定通り変えないでください。ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布。」

いつもの落ち着いた口調で、適確に指示を出していくアズサ。

「アズサさん、私出ます!」

[あかん、ハルカの機体は最終調整が終わっとらん!]

艦橋を後にしようとするハルカであったが、チカコの声に引き止められる。

「ネモ隊、発進お願いします。」

チカコの言葉を聞いて、迷うことなく言うアズサ。

[あと3分で終わらせるさかい、準備して待っといてくれ!]

「わかりました……」

ハルカは唇を噛み締め、ゆっくりと艦橋を後にする。

「じゃあボクが」

勢い良く手を挙げたマコトだが、

[アンタの機体は突入作戦までに直すのが精一杯なのよ!バカなこと言ってんじゃない!]

「ごめんなさい……」

リツコに怒鳴られた。





「敵が出たの。」

ミキが、チハヤ機とヒビキ機の手を握って言った。

「………あの光かしら。」

チハヤが目を細め、正面を睨んで言う。

「いつもの、行くわよ!」

チハヤの掛け声で一直線に隊列を組み直し、全力噴射。

その光は敵に居場所を教え、接近は視認を可能にする。

「こちらネモ隊、敵機を視認した!敵は………クゥエル1機?」

言葉通り、彼らに見えているのは全力噴射で向かってくるクゥエル1機のみ。カスタマイズされているようだが所詮は旧式、恐れるに足らない。

ネモのパイロットは小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、

「ずいぶんナメられたもんだ。ハルカ少尉が出るまでもないな。」

3機のネモ小隊全員が、腰に装備されたミサイルランチャーを牽制に発射。

クゥエルが、バルカンとビームライフルでそれらをすべて撃ち抜く。

「すこしはやる、か……」

破片と爆炎で見えなくなったクゥエルの姿を捜しながら、ネモはライフルを構えた。

「各機、索敵を怠るな!」

その時、ビームの閃光がネモを掠める。

「煙の中から撃ってきた!?」

「うおおおおおおおっ!」

一瞬遅れて、煙の中から飛び出してくるクゥエル。良く見ると制式色そのままではなく、肩のアーマーには浅葱色のラインが走っている。

慌ててネモがライフルを突き付けるが、浅葱色のクゥエル、ヒビキ機は見透かしたかのように軌道変更、ネモの下をすり抜ける。

「ミキ!」

次の瞬間、ネモの前方センサーが捉えたのは、未だ漂う煙の中から上へと飛び出す機影。

「なんだと!?」

敵は今しがた自分の下をくぐり抜けたはず。

目を凝らせば、その機体に走るラインの色は、フレッシュグリーン。

「別の機体……!?」

「遅いの!」

そのクゥエル……ミキは右手にマシンガン、左手にビームライフルを持ち、一斉掃射。

当てずっぽうに撃った弾はネモに当たることはなく、その周りを駆け抜けていく。

「こんな攻撃……」

「チハヤさん!」

盾を構え、射撃の雨に耐えるネモに、水色のラインの入ったクゥエルが突進する。

「はあああああああっ!」

ビームサーベルが、ネモを一刀両断にした。

「なんだこいつら……!」

慌てて体勢を立て直す残りの2機。

「甘いぞ!」

あとから出てきた2機に気を取られていたネモが、後ろに回り込んでいたヒビキに気が回るはずもなく。

真後ろからBRに撃ち抜かれ、爆散する。

「しまっ……」

慌てて逃げようとする最後の一機であったが、ヒビキとミキに両腕を捕まえられた。

「くそっ……!」

必死にもがくが、クゥエルに備わる標準以上の馬力に加え、追加ブースターになす術は無い。

チハヤが接近、ネモの肩を掴み、ビームサーベルを背中につきつけた。

「脱出しなさい!」

「女の声……!?何を言って……」

「いいから、脱出しなさい!死にたいの!?」

その声の気迫に後ろを振り向いたネモのパイロットの目に映ったのは、煌々と光るビームサーベルの切っ先。

「ひっ……」

息を飲み、慌てて脱出装置を作動させるパイロット。

胸部装甲が吹き飛び、コックピットユニットが飛び出る。

「「「Come again!」」」

次の瞬間、ヒビキとミキの放ったビームが、チハヤのサーベルが、ネモを貫いた。





「ネモ隊、全滅!」

モンデンキント艦橋、コトリが叫んだ。

「そんな、あっという間に……」

ヤヨイも、涙目になりながらも情報処理を続けている。

「ハルカちゃんの出撃は?」

普段とは違う、切迫した表情でアズサが言う。

[今、出ますっ!]

格納庫、ハルカがリック・ディアスのコックピットにつかまって言った。

「はるるんっ!」

その時、格納庫の扉を開けて2つの影が飛び込んでくる。

一年戦争から7年、成長してもうりふたつのその人影。

「こらーっ!アミ、マミ!出撃前後のハンガーにイキナリ入ってくるなって何回言えば……!」

「へっへーん、大丈夫だよー!」

マミが下で怒鳴るリツコに舌を出し、アミがハルカにデータチップを投げる。

「さっきの戦闘データを基に、はるるんに合わせてOS組み直しておいたの!」

「しっかり使えよっ!」

「よっ!」

「ありがとう、アミ、マミ!」

満面の笑みを浮かべてチップを受け取り、コックピットのスロットに放り込んだ。

そのままカタパルトへ、メンテナンスクルーと、アミ、マミが見送る。

[ハルカ・アマミ、行きます!]

脇の信号が赤から青へと移り変わり、発進。



「この感じ!」

ネモ隊を倒し、殿の艦……モンデンキントを追撃しようと動きだした瞬間、ミキが突然顔を上げた。

「どうしたの?」

「あの時の……でも、暖かいって言うより……熱い……」

チハヤがミキの肩を掴んで言うが、ミキは耳を貸さない。

チハヤも試しに目を閉じてみるが、何も感じなければ、真空の中、耳に入るのはクゥエルの駆動音だけ。

「ヒビキ、分かる?」

「出撃前にもミキが言ってて……自分はそういうのはよく分からないから…」

チハヤの問いに、険しい顔をするヒビキ。

「この人、怒ってるの。」

あまりにも真っすぐで、ともすれば怯んでしまいそうな強い感情。だがそれは憎しみではなく、悲しみに満ちた怒り。

「仲間を殺されたんだもの……当然ね。」






「何、この感覚……」

一方、ハルカも違和感を感じていた。出撃前から感じていた威圧感。それが、会敵が近付くにつれて強くなっていく。

今までにも、ニュータイプと思われる人間と戦ったことはあった。

「けど、こんなの初めて……」

今まで感じてきたのは、こちらに対する敵意、嫌悪。

今感じているのは、呼んでいるような、無邪気な心。

「でも………」

加速のためにペダルを深く踏み込み、レバーを強く握る。

「惑わされない!」

「「っつ……!」」

ヒビキとミキが、跳ねるように姿勢を正し、銃を構えた。

「どうしたの?」

「来るぞ!」

ヒビキの真剣な声に、チハヤも構える。

射程距離までもかなりあるが、クゥエルの高性能カメラの最大拡大映像が敵の影を捕らえた。

スラスター全開で突進してくる機体。特徴的な背中のバインダーは、リック・ディアスか。

射程距離よりはるかに遠い距離から、リック・ディアスが発砲。

どうせ牽制、当たるはずはないと楽に構えていたチハヤであったが、

「チハヤ、危ない!」

ヒビキがチハヤ機に回し蹴りを入れた。

「何を……!」

意味不明の行動に怒鳴ろうとしたチハヤであったが、ビームに貫かれたヒビキ機の右足を見て息をのむ。

「狙ってきたというの……?」

有効射程より遥か遠くからの精密射撃。

かつての親友が頭をよぎるが、首を振り否定する。

「まさか、ね。」

彼女は地球連邦軍。スペースノイドに与するはずがない。

何より、彼女はいつも私を遠くからでも見つけてきた。

ドジな彼女であったが、いつもそのことには一本取られた気分で。

MSの装甲越しでも、彼女は私を見つける。ならば、銃を向けるはずがない。

ヒビキもすでに爆発の恐れのある右足を切り離して戦闘行動は可能、チハヤは気を取り直して大きく深呼吸、ビームライフルを構えた。

だが、チハヤの目に映ったのは。

白をベースに、明るいピンクのリック・ディアス。

「ハル……カ……?」

かつての親友、ハルカ・アマミのパーソナルカラーが施された機体。

「ハルカなの?」

まさか、そんなはずが。

「チハヤさん、どうしたの?」

ミキの声も聞こえず、操縦桿を握る手が震える。

「ハルカっ!」

「……チハヤちゃん!?」

ずっと感じていたプレッシャーを突き抜ける、鋭いチハヤの思念を感じてハルカは立ち止まった。

「動きが止まった?」

人の名前を連呼するチハヤと、突然動きを止めた敵に戸惑いながらも、ヒビキは銃を構えた。

「待って。私がやる。」

片手でヒビキを制して言うやいなや、

「……ハルカ!」

チハヤはスラスター全開で飛び出した。

「おい、チハヤ!」

ヒビキは止めようとするが叶わず、チハヤは突き進み、敵は静止したまま。

「知り合い……なのか?」

ヒビキは呟いた。

「チハヤ……ちゃん……?」

猛スピードで突っ込んでくるチハヤに、ただ立ちすくむしかないハルカ。

手が震える。今、自分はチハヤを彼女と気付かず撃った。

チハヤの氷のように鋭い気質、いつもなら気付けていたはずなのに。

「ハルカ!」

チハヤ機が、ハルカ機の両肩を掴んだ。

接触通信を開放、目に涙を浮かべチハヤが叫ぶ。

「チハヤちゃん!なんでティターンズに!?」

通信が繋がり、ハルカが言う。

「あなたこそ、なんでスペースノイドに肩を貸すの!? なんで……」

今にも泣きそうなチハヤの声。

「なんで私に銃を向けるの!?」

その口から、ハルカの一番恐れていた言葉が飛び出した。

「違う! ………!?」

首を振りハルカは口を開くが、その時、モンデンキントの方向から打ち上げられる発光信号。

「回収限界………!」

このままでは、取り残されてしまう。

チハヤを連れ帰る、自分がチハヤについていく、様々な思いが頭名の中を駆け巡るが、

リック・ディアスの肩の一部が開き、驚いたチハヤが慌てて離れる。

が、放たれたのは一発の信号弾。

「……チハヤちゃん……ごめん……」

ハルカ機に腕を伸ばすチハヤ機を一瞥、ハルカは踵を返し、彼方へと消えていった。




【ルナツー司令室】

「予定を3日も繰り上げての艦隊演習………随分と熱心ですね。」

横柄に書類をタカギに渡し、シジョウが言った。

豪華な机に座るタカギはそれを受け取り、改めて部屋を見渡した。

正面には自分と同じ豪奢な椅子に座るシジョウ、その後ろに控える、フェアリー小隊と言ったか、3人の若い女性。

そして出口近くと自分の両脇に二人ずつ、直属の部下。

4人の部下の真剣な眼差しを受けて、タカギは口を開いた。

「最近エゥーゴの動きが活発化していてね。加えてティターンズの拡大に伴う人事異動。艦隊の統率が取れなければ、ラグランジュ5方面の治安を誰が守るというんだね。」

固い顔で答えるタカギに、

「それだけではありませんわ。演習が終わるや否やの、メインゲート改修工事。」

艶妖な笑みを浮かべるシジョウ。

「それは予定されていたことだ。不自然ではあるまい。」

「推進剤不足の艦を抱えているのに、真っ先にプロペラント供給装置を取り外しても、ですか?」

「………」

「さらに管制室コンピュータをメンテナンスモードに……… 被弾痕が痛々しかった外壁換装から始めなされば、出航を押すことも出来ましたでしょうに。」

「判断ミスだったかもしれん……だが、過ぎたことだ。」

「この基地が、エゥーゴと内通している可能性は?」

シジョウの突然の一言に、場が騒然となる。

「言葉が過ぎやしないか、中佐。」

「可能性の一つとして申し上げたまでですわ。」

冷静なのは、タカギとシジョウのみ。

「地球連邦『宇宙』軍の要たるルナツー基地。宇宙主義のエゥーゴにも、元地球連邦の士官が大量にいるようですし。」

「この基地そのものが、エゥーゴに傾いている。そう言いたいのだな?」

若干の怒気を込め、タカギが言った。

流れる沈黙。

「ええ。」

大きく頷くシジョウ。

「貴様………!」

タカギではない、その右隣りにいた男が腕を振り上げ、シジョウに飛び掛かった。

「中佐!」

割って入るように飛び出るチハヤ、腕を掴み、合気の要領で押さえ付ける。

「離せ!」

「出来ません!」

「貴様、上官の命令が聞けんのか!」

男の襟に輝く、大佐の階級章。

逡巡するチハヤだったが、シジョウが立ち上がり

「そのまま。」

静かに言った。

頷き、固め技をやめないチハヤ。

「貴様も中佐だろう!これ以上無礼を働けば……」

「この………」

一歩前へ、シジョウは力強く男の眼前の床にその踵をたたき付ける。

「痴れ者!ティターンズと一般将校は違うと、知らぬとは言わせません!」

司令官室に響き渡る、凛とした、それでいて聞く者を恐怖させる声。

「…………」

その迫力に、男は目を見開いて固まる。

0083年の発足から始まるティターンズの絶対強権、ここに極まれり。

「……で、中佐はこの基地をどうするつもりだね?」

重苦しい沈黙の中、口を開いたのはタカギ。

「そうですね………」

勿体振るようにシジョウは目を閉じ、部屋を一周する。

そして、

「ティターンズの権限で、全ボイスレコーダーを調べさせましょうか?」

意地の悪い笑みを浮かべで言った。

「ボイスレコーダー……?それなら」

ホッとした表情で言うタカギに、

「ああそうそう、官制室の防犯カメラも。」

シジョウは追い撃ちをかける。

「……それは……」

「何か、問題でも?」

やましいところは無いのでしょう?と言わんばかりにタカギに迫る。

「……………冗談ですわ。」

長い沈黙の後、タカギの頬に手を当て、シジョウは言った。

「何………?」

シジョウの色仕掛けには眉一つ動かさず、タカギは怪訝な顔をする。

「ティターンズも、一枚岩ではないという事。」

ゆっくりと撫でるように手を離し、

「覚えておいてくださいな。」

シジョウは微笑んだ。




[ハルカ機、着艦します!]

コトリの声と共に、ハルカ機がモンデンキントのカタパルトデッキに着陸した。

[モンデンキント、最大戦速。艦隊への遅れを取り戻して。]

アズサが右手を前に突き出して言う。

巨大なノズルが火を噴き、加速するモンデンキント。

そして艦長席から腰を上げ、

[お疲れ様ー、ハルカちゃん。ネモ隊の人達は残念だったけど………ハルカちゃんは、大丈夫だった?]

いつもの間延びした声で言った。

「はい………」

リック・ディアスをハンガーに格納しながら、ハルカは呟いた。

[どうしたのー、ハルカちゃん。元気無いみたいだけど……]

首を傾げアズサが言うが、ハルカは応えない。

「ちょっと僕、様子見てきます!」

そう言って、マコトは艦橋を飛び出した。



「お疲れ、ハルカ!」

ハンガーに固定されたリック・ディアスから降りてくるハルカとすれ違いざま、リツコはその肩を叩いて言った。

「………」

だが、ハルカは応えない。

……1年戦争の頃のハルカに戻ったみたい………

リツコは思った。

あの頃は、敵を倒すのも味方がやられるのも堪えられない、と戦闘後はいつも黙りこくっていた。

だがそれも、4年前のデラーズ・フリート決起の頃から持ち前の前向きさで吹っ切っていたというのに。

「どないしたんや、ハルカは……」

リック・ディアスの整備に来たチカコも、眉をひそめて言った。

「さぁ………」

リツコも、ただただ首を傾げるだけ。

「ハルカ!」

その時、ハンガーに飛び込んでくる人影……マコト。

さすがにハルカもこれには立ち止まり、マコトの方を向く。

「どうしたんだよハルカ……みんな心配してるよ?」

「………ちゃんが………」

あごから滴る汗を拭おうともせず、ハルカは呟いた。

「え?」

「クゥエルの中に、チハヤちゃんが……居た……」

絞り出すように言うハルカ。

「………まさか。」

マコトは肩をすくめるが、

「本当……会話……したもの……」

「………」

マコトの知る限り、765隊でジオンに一番恨みを抱いていたのはチハヤ。

もしそれが、しばらく会わない内にエゥーゴ=スペースノイドという構図にすり替えられていたならば。

「私……チハヤちゃんに銃を向けた……」

力無くマコトにしがみつくハルカ。

「………大丈夫だよ。チハヤも分かってくれる。」

そんな確証はどこにもないが、マコトが言えるのはそれだけだった。

今は、チハヤを信じるしかない。

「でも……でも……」

慰めるように肩を撫でるマコトに、ハルカは首を振る。

「……チハヤを連れ戻そう。」

肩を握る手に力を込め、マコトは言った。

「本当のティターンズを知れば、きっと間違いに気付くさ。」



「チハヤ、本当にあれで良かったのか?」

ルナツー基地の4人部屋。風呂から帰ってきたヒビキが、ベッドに座るチハヤに言った。

二段ベッドが二つという部屋。ミキはすでに爆睡中、ユキホも、チハヤの上のベッドで寝息を立てている。

「……何が?」

「ルナツーのことだよ!もしかしたらエゥーゴと繋がってるかもしれないんだろ!?」

「シジョウ中佐の、ご判断よ。」

床を見つめ、チハヤは言った。

「そりゃあ、そうかもしれないけど………」

ミキの脱ぎ散らかした服をまたぎ、チハヤの隣に座るヒビキ。

「明日は出発よ。エゥーゴ艦隊が地球軌道上に集結しつつあるみたいだし、寝ておかないと。」

そう言って横になろうとするチハヤだったが、

「話は終わってないぞ!」

ヒビキがその肩を掴んだ。

「今日の戦闘、何があったんだ。」

「別に………」

「よく言うよ、戦闘中にあんなことして、終わってからも黙りっぱなしで!」

目を逸らすチハヤに、さらに迫るヒビキ。

だがチハヤは口を固く結び、目を合わせようとしない。

「……自分にも、言えないことなのか?」

ヒビキの声のトーンが下がる。

一瞬、彼女の顔を窺い見たチハヤの目に映ったのは、真剣で、今にも泣き出しそうな大きな瞳。

沈黙、

「………私の、親友がいたの。」

チハヤは再び目をそらし、言った。

「親友……?」

チハヤと同年代にして、あれほどの手練がそう何人もいるものなのか。ヒビキは首を傾げる。

「元地球連邦正規軍の、ね。」

「そうか、チハヤは小さい時から……」

コロニー落としによる東京の壊滅、家を失った子供達。

彼女らの一部が連邦に加わり、アフリカ戦線において目覚ましい戦果を挙げたことは、アムロ・レイの伝説に次いで連邦軍内で知らないものはいない。

「彼女……ハルカだって、ジオンに親族を殺されているはずなのに、何故ジオン残党になんかに……」

ヒビキの肩に顔をうずめるチハヤ。

「チハヤ………」

ヒビキは、その頭に手を置いた。

「チハヤちゃん………」

ベッドの上、起きていたユキホの呟きは、二人には聞こえない。
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リンゴ・t

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アイマスが好きです、でもガンダムは人生です。

im@s架空戦記「宇宙駆ける蒼い鳥」好評連載中!

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