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第四話-重力戦線(後編)-【宇宙駆ける蒼い鳥】

2010.02.17

category : 月光蝶である!

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【カリブ海上空】

「お久しぶりです、ジョセフさん!」

ガルダ級輸送艦『インベル』の艦橋、ハルカは元気良く敬礼した。

「いやぁ、お久しぶりですアマミさん。星の屑以来でしたかな。」

敬礼を返し、手を差し伸べるジョセフ。

「あの時は、ご迷惑をおかけしました。」

そしてその手を握り返したハルカに、深々と頭を下げた。

「もう、まだその事気にしてるんですか?」

ハルカの後ろから、マコトが気楽に言う。

「ボクらも連邦のやり口に腹が立ってそっちに加勢したんです、気にしないで下さい。」

「……ありがとうございます。」

英国紳士のような優雅さで礼をするジョセフ。

そして後ろを振り返り、

「では、もう紹介は不要ですね。」

春香は大きく頷き、

「はい!ナラバさん、」

黒一点を指差して、

「ソレハさん、」

ショートカットの女性を、

「……えーと……」

眼鏡の女性を指差して、動きが止まる。

「ナゼです!なんで私だけ忘れるのよ……」

「ああ、そうでしたそうでした。あははは………」

「先輩、だいたいの人に一度で名前覚えてもらえませんよね。」

「うるさいっ!」

からかうショートカットの女性……ソレハに猛然と噛みつくナゼ。

「マコト!元気してたか!」

「ナラバさんこそ!」

片や、マコトとナラバは元気良く手を打ち合う。

「マコトさん、また彼に、空手でも教えてやってください。私の指導は、どうも分かりにくいようで……」

「隊長の肉体言語で分かるわけないじゃないですか……」

「分かりました!」

肩を落とすナラバに、マコトはガッツポーズをとった。

「……お変わりないようで、本当に何よりです。」

ジョセフは微笑み、

「そういえば、もう一人……キサラギさんは……」






【地球連邦軍 カリブ基地】

「大尉殿、グリプスのオーバーマスターとの回線、繋がりました!」

基地の指令室。一人の下士官が、受話器のようなものを持ってチハヤに駆け寄った。

「もしもし、中佐ですか?」

そのレーザー通信回線の受話器に向かって言うチハヤ。

[キサラギ大尉……無事で何よりです。]

「ありがとうございます。」

目の前にシジョウがいるかのように、律儀に敬礼する。

「ヒビキやミキも降りて早々、ハル……我々と共に大気圏を突破した部隊と一戦交えたようです。補給を兼ねてこの基地で合流、追撃をします。」

[……ハルカ・アマミ、ですか?]

唐突なシジョウの言葉に、チハヤは動きを止めた。

「何故……それを……」

[ホワイトベース部隊、 そして765独立小隊。一年戦争の代から地球連邦軍に属する者で、知らぬ者は居ません。]

「でも、それがあの部隊だとは……」

[……まぁ、詳しいことは、ユキホに聞いたのですが。]

そして、通信の向こうでシジョウが笑う。

「なかなか通信が繋がらないと思ったら……!」

[彼女も貴方のことを心配していました。気にするな……とは言いませんが、貴方なりの答えを見つけなさいな。]

「しかし、このままでは作戦行動に支障をきたしてしまうかも」

[貴女なら大丈夫でしょう。『蒼い鬼神』の二つ名は、伊達だったのですか?]

「……いえ。」

「貴女なら大丈夫です。真実を……いえ、これは蛇足ですね。とにかくも、本領、地球での戦果を期待しています。」

「……?分かりました。チハヤ・キサラギ大尉、地球でのエゥーゴ討伐任務に邁進します!」

指令室のど真ん中で完璧な敬礼を披露し、チハヤは通信を切った。

その時である。

「大尉殿、ヌービアムが到着しました!」

指令室の扉を開け、一人の兵士が入ってきた。





「チハヤさんっ!」

ヌービアムのタラップの手すりを乗り越え、ミキはチハヤに抱きついた。

「ミキ、ヒビキ、大丈夫だった?」

肩に頭をうずめるミキを抱き返し、チハヤは微笑む。

「あたりまえだぞ!……って言いたいところだけど、やられた。」

「MSは直せるじゃない。貴方達が無事なのが何よりよ。」

チハヤの隣に並んでうなだれるヒビキ、チハヤは慰めるようにその肩を撫でた。

「チハヤさんも、無事で何よりなの!」

「ユキホのおかげよ。彼女がいなければ、どうなっていたことか。」

「別に、私は何も……」

微笑むチハヤに、ユキホは大きく首を振る。

その時、

「チハヤ・キサラギ大尉殿ですね。」

タラップの上、カラスが言った。

「貴方は?」

「カラス・グランドロッヂ。トゥリアビータニュータイプ研究所の者です。」

「トゥリアビータ……あのゲリラ上がりの?」

怪訝な顔を向けるチハヤに、

「これは手厳しい。」

苦笑するカラス。

「ごめんなさい。それを言えば、ティターンズの大半は温室育ちの頭でっかちね。」

「しかし貴方達は違う。新しいMSの支給もありますよ。」

カラスは微笑んだ。

「本当か!」

チハヤこそ表情を崩さなかったが、カラスの言葉にヒビキとミキの顔が輝く。

「この基地に用意させています。あちらへ。」

タラップを降りたカラスが、すぐ近くの格納庫を示す。

「クゥエルの性能チェックは、もう良いの?アレも確か、トゥリアビータ研の開発した機体だったはずだけど。」

「実質上それの引継ぎ、とでも言いましょうか。あの機体の追加ブースターはオークランド研が開発して、本来は今からお見せする機体の為に作られたものです。他の部分の完成が間に合わず、我がトゥリアビータ研がオーガスタ研のクゥエルに装備して性能を見ることにしたのですが……。」

そこでカラスは言葉を切り、

「大尉殿ならお分かりのはずです、クゥエルの機体はあのブースターの最大出力に耐えられません。」

「……やっぱり。」

「いやはや、お恥ずかしい。しかし今からお見せするのは完成品です。」

そう言って、格納庫の扉を開けるカラス。

「ORX-005、ギャプラン。オークランド研もオーガスタ研も実戦に関しては門外漢だったようで、我々に改良の協力を頼んできましてね。テストベッドを用意する代わりに、一機提供を受けました。」

そう言って、カラスはチハヤに鍵を渡した。

格納庫の最奥、そびえるように立つ一機のMS。

頭頂高こそ他のMSとさして変わらないが、961のクゥエルと同じ巨大な背中のブースターと、両腕についたブースターが機体を一回りも二回りも大きく見せている。

「これが……」

巨大な機体を見上げながら、歩み寄るチハヤ。

だが。

「おい、あれが……」

小さな声で、だが広い格納庫にしっかりと響く、整備士達の声。

「ああ、女だけの部隊、本当だったんだな。」

「任せられるのか?」

辺境の連邦軍基地。それでいて、連邦の本丸であるキャリフォルニアベースとジャブローに挟まれ、長くジオンの脅威もなかった場所。

そんなところに配属された兵士達の錬度、士気、質など、推してはかるべきものである。

それを知ってか、チハヤは不快そうな顔をしつつも黙っているし、ヒビキも何かを言おうとしたミキの口を抑える。

「さぁな。」

「耐えられる重力加速が段違いだろう……」

「でも、良い体してるじゃねぇか。なかなかの上物だぜ。」

「本当だ。俺の好みは金髪の方だな。」

「でも見てみろよ、あの女の胸は男」

「不愉快です!」

無機質な作業の音をかき消して響き渡ったのは、チハヤの声。

あーあ、と言わんばかりに額を抑えるヒビキ。

「……チハヤ大尉?」

突然の罵声に、首を傾げるカラス。

「不愉快だと言っているんです!」

チハヤは大仰に振り返り、

「モノアイが気に入りません!なんですかこれは、まるでジオンの機体ではないですか!」

「いや……しかしモノアイは優秀な複合センサーとして……」

「それでもです!」

すさまじい勢いでカラスに歩み寄り、鍵を突っ返す。

「はぁ……」

困り顔で、それを受け取るカラス。

「整備さえしていただければ、クゥエルで十分に戦えます。」

引きつった顔で、チハヤは断言した。

「……分かりました。もともとチューンアップをする予定でしたし、それまでこちらで預かります。」

やれやれ、と溜息をつき、カラスは鍵をポケットにしまった。

「チハヤちゃん……」

「止めないでユキホ。これは私の問題よ。」

「あう……」

ユキホが恐る恐る歩み寄るが、それを睨み返すチハヤ。

そのまま振り向きもせず、チハヤは格納庫の外へ歩いて行った。

「なぁ……本当に大丈夫なのか?」

チハヤが遠くに行ったのを確認して、ヒビキはカラスに耳打ちする。

「機体の実験はブラン・ブルターク少佐の隊でも行われますから、問題ないでしょう。」

小さくため息を付き、肩をすくめるカラス。



「あれは…ヌービアムの他にもガルダが……」

小さな基地の滑走路に、狭ぜましく並ぶ二隻のガルダ。

格納庫を出たチハヤは、もう一機のガルダに歩み寄る。

濃紺のヌービアムに対し、鮮やかな緑のガルダ。

「ガルダ級一番艦、スードリだ。」

その時、後ろから聞こえる低い声。

「ブラン少佐?!」

嬉しそうに微笑み、チハヤは振り返った。

「久しぶりだな、チハヤ・キサラギ。お前が宇宙に上がる前に、ジャブローで会って以来か。」

「はい、お変わり無いようで。」

さっきまでの態度とは打って変わり、チハヤは丁寧に礼をする。

「聞いたぞ、お前もニタ研の実験に付き合わされるらしいな。」

「はぁ……」

「俺もアッシマーだとかいう、よく分からん機体を掴まされた。これから慣らし運転もせにゃならん。」

心底ウンザリしたような顔のブランに、今しがたそれを蹴ってきたとは言えないチハヤ。

「ティターンズに入った途端、人工ニュータイプの実験に付き合わされ、新機体の実験台にされ、その上カラバを追えと来たもんだ。楽なゲームじゃねぇぜ。」

そんなチハヤに気付くはずもなく、ブランは自分の苦難を指折り数える。

「少佐ならできますよ。」

「当たりめぇだ。」

微笑むチハヤに、ブランは鼻を鳴らしてそっぽを向く。

「……それにしても強化人間ってのは、所詮ニタ研で飼われてた実験体みたいなもんだろ。そんなもんに頼るようになったとなれば、連邦もいよいよだな。」

そう言って、自身の制服の襟についた連邦旗章をいじる。

「少佐、そんなこと」

チハヤが顔をしかめるが、

「分かっているよ。宇宙人は、宇宙に居ればいいんだ。」

拳を鳴らすブランに、安心したように微笑んだ。

「お前のところにも強化人間がいるらしいじゃねぇか。せいぜい振り回されないように頑張れよ。」

そして、スードリへと去っていくブラン。

「少佐も、御武運を!」

その後ろ姿にチハヤは踵を揃え、律儀に敬礼した。
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第四話-重力戦線(中編)-【宇宙駆ける蒼い鳥】

2010.01.18

category : 月光蝶である!

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「くそっ!」

マコトはヒビキの放つビームを全てかわしこそするが、反撃に連射するビームは完全に的外れな方向に飛んでいく。

「見た目は派手でも!」

盾を構え、追加ブースターの推力を存分に活かし、まっすぐに突っ込んでくるヒビキ。

「ああ、もう!」

ついにマコトは、いっこうに当たらないビームピストルを投げ捨てた。

それを見て、ヒビキもビームライフルを収納する。

両者同時に、ビームサーベルを抜刀。

「うおおおおお!」

「はあああああ!」

交差。

盾を持ったままのヒビキよりも、サーベル一本のマコトの方が一手早かった。

サーベルがクゥエルの盾を切り裂き、さらにはその奥の

「な……!」

空を、切った。

下方には飛び去るド・ダイ、上方には跳び上がったクゥエル。

このままでは背中を取られ、狙い撃ちされる。

そう思ったマコトは、慌てて前方へ距離を取った。

だが、次の瞬間。

「あの状態から反転出来る!?」

全力で前進するディアスに張り付いているクゥエルを見て、恐怖の声を上げるマコト。

「追加ブースターは伊達じゃない!」

全身の血が偏るような凄まじいGを感じながらも、ヒビキはサーベルを振りかぶった。



「あなたは何でチハヤさんを困らせるの!?」

ライフルを構えたまま一定距離を保ち、回り続けるミキとハルカ。

一見すると怠慢な動きだが、動きを止めれば狙い撃たれるという緊張感が装甲越しに張りつめている。

「そこっ!」

ハルカが発砲するが、ミキは急転換して回避した。

「やっぱり読まれてる!」

再び発砲するも、今度は避けられたばかりか的確な反撃が飛んでくる。

だがハルカもそれをなんなく回避、再び睨みあいに。

「「やっぱり……ニュータイプ!」」

見つけたくなかった共通点。だが、異常とも言える反応速度は明らかにニュータイプのそれである。

「チハヤさんは、チハヤさんは、いつも頑張ってるの!」

再び飛んできたビームをかわし、ミキが叫ぶ。

「チハヤさんのお友達なら、なんでチハヤさんのことを助けてあげないの!?」

「あたし……だって……!」

叫び、やけくそ気味にビームライフルを放つハルカ。

「う……!」

ハルカから放たれる気迫。反応が遅れ、ミキのド・ダイをビームがかすめる。

損傷、バランスを崩すド・ダイ。

「これで……」

その隙にハルカはライフルの銃口を、マコトに向かってサーベルを振りかぶるヒビキに向けた。

「ぐっ……」

ヒビキは慌てて上昇するが、ビームが右脚を直撃する。

「うわあああっ!」

「ヒビキ!」

墜落するヒビキを追うミキ。

だがすぐに、ヒビキも体勢を立て直す。

「ヒビキ、大丈夫なの!?」

「なんとか……」

ミキのド・ダイに掴まり、爆発を避けて火花を散らす右脚を切り離す。

「戦えそうにはないけど、な……」

「いったん船に帰るの!」

そう言って、ヌービアムへと踵を返すミキ。

「逃げる?!」

ハルカが追いかけようとするが、

「深追いしない方が良い!」

マコトはそれを引き留めた。

「でも……」

「数が違いすぎるし、あいつらと戦い続けたらこっちが不利だよ!」

瞬間、ビームがハルカとマコトの間を走り抜ける。

言葉通り、目の前にはまだ多くのハイザックが。

「ああ、もう!」

大きく首を振り、ハルカはビームライフルを撃つ。ビームはハイザックのうちの一機の腹部を直撃、撃墜した。





[ヒビキ機、ミキ機帰還!ミキ機は無傷ですが、ヒビキ機は右足を爆損していて戦闘継続は不可能です!]

[戦力損耗率算出中……再び味方が各個撃破されていっています!]

艦橋からの報告を聞きながら、カラスは格納庫へ続く廊下を歩いていた。

「被弾していない方の機体をすぐに出させろ。リファの様子とギャプランの整備状況は!」

[リファは出撃可能ですが、ギャプランは後方モニターの問題がまだ解決していません。それに伴って1G下ではバランサーにも問題が……]

オペレーターの言葉にカラスは小さく舌打ち、

「……やむを得ん、撤退だ。信号弾を打ち上げろ。」

静かに言った。

[了解しました。]

「全く……何がエース小隊か。」

格納庫の扉を開け、吐き捨てるように言うカラス。

「どうでしたか、初の重力下戦は。」

苛立ちで歪んでいた顔を整え、クゥエルを降りていたミキとヒビキにカラスは言った。

「ごめんなさいなの……」

「すまない……」

うなだれる二人。

「困りますよ、ティターンズきってのエース小隊と名高い貴女達がそんなことでは。」

腕を組み言うカラスに、ヒビキとミキは何も言えない。

「次からの戦果を、期待しています。」

そう言い放ち、ブリッジへと踵を返すカラス。

うつむく二人を尻目にハイザック部隊は次々と着艦し、ヌービアムは進路を変えた。




【一時間前】

空力摩擦で機体は小刻みに揺れ、少し手を伸ばせばショックコーンの外のプラズマの嵐に触れられそうな状況。

チハヤは、ユキホの大気圏突入艇、コスモスの上に乗って成層圏を降下していた。

「本当にありがとう、ユキホ。」

機体の損傷をチェックしながら、チハヤが言う。

「ううん、大丈夫。」

微笑み、高度計と機外温度を確認しながらユキホは言った。

「突入回廊に入る前の急激な機動……迂濶だったわ……」

頭を抱え、唸るチハヤ。

「チハヤちゃん……」

完璧主義のチハヤにとって、その行動は確かに迂濶であっただろう。だが、問題はそこではないはず。

……触れない方が、良いのかな……?

ハルカの名を出すべきか否か、ユキホが逡巡していると。

「で、ユキホ。このままだとどこに降下することになるの?」

妙に明るいチハヤの声。

……やっぱり、無理をしている。

「……ユキホ?どうしたの?」

……そんなことより、ハルカちゃんは? そう聞くことができない自分が歯がゆい。

「……ううん、大丈夫。」

……結局、自分にはどうすることもできないのか。

ユキホは諦めたように首を振ると、

「えーと……このままだと、緯度…西経…ジャブロー直上で対流圏に出られるはず。」

予想航路を接触回線で転送した。

「ジャブローに?……降りてからどうしようか心配してたけど、これなら安心ね。」

ユキホから送られてきた予想航路。通常の突入艇ならジャブローから大きく外れてアンデス山脈に突っ込む航路だが、サブフライトシステムとしても機能するコスモスなら問題はない。

「うん、オーバーマスターにも降下先の部隊にも、すぐに連絡がつくと思う。」

ユキホもコスモスを大気圏突入用モードから大気圏航行用のそれに切り替え、対流圏突入に備える。

機体を包んでいたプラズマが晴れていき、眼下にジャブローの密林が広がる。

「何……これ……?」

……はずだった。

下に広がっていたのは、一面の雲海。

それも、真っ黒な。

「雨雲……いや、違う……」

雨雲が黒いのは、太陽光のを遮っているから。遮る物の無い太陽光が直接降り注いでいる水滴と氷塊の集合が、黒いはずなど。

「戦闘のせい……?」

ユキホが呟くが、

「まさか、エゥーゴのMSが全滅したってこんなことには……」

ひきつった顔で首を振るチハヤ。

「それだけじゃない、凄い上昇気流……」

ユキホの言葉通り、先ほどから大気圏突入の小刻みなそれとは違う大きな揺れが機体を襲っている。

「突破できるかしら?」

「たぶん出来るけど……念のためにブースターの準備はしておいて。」

「分かった。」

機体制御系統を大気圏モードに切り替え、操縦桿を握り直すチハヤ。

そして、ゆっくりと雲に突っ込むコスモス。

機体の周りが黒い煙に包まれる。見ると、ところどころに火の粉すら。上昇気流に翻弄されそうになるコスモスを、ユキホは必死に抑えつけた。

それでもなお収まらない激しい乱高下。視界も無いために、振り落とされれば頼りになるのは機体の高度計と水平計のみ。チハヤは必死でコスモスにしがみつく。

「あと……少し!」

ついに雲を突き抜けるコスモス。

眼下に広がっていたのは、一面の焼け野原。

かつてジャブローの中心地があった場所を中心に巨大なクレーターが出来ており、アマゾンの大河が流れ込んで湖となっていた。

未だに淵の部分は高熱なのか、蒸気の立ち上る湖。

周辺の木々に火は燃え広がり続け、止まる気配は見えない。

煤煙と蒸気、それらが混じりあってそびえ立つ、きのこ雲。

地獄絵図とはこのことか。

「気化弾頭……なのかな。」

ユキホがゆっくりとヘルメットを外そうとするが、

「待って!」

チハヤが叫ぶ。

「ヘルメットを外してはだめ。バイザーも上げないで、気密をもう一度確認して。」

「チハヤ……ちゃん?」

怪訝に、モニターに映るチハヤの顔を見るユキホ。

そのチハヤの視線の先、唸りを上げる、あるメーター。

もともとコロニー治安維持用に作られたクゥエル。支給された時は数々のセンサー類に驚いたものだが、

その中で今、耳障りな唸りを上げているメーター。

α、β、γの3つの表示。

「核……これもエゥーゴの仕業……」

ガイガーカウンター。

「……とりあえず、最寄りの基地に行こう。」

震えるユキホの言葉に、チハヤは歯ぎしりで返した。

第四話-重力戦線(前編)-【宇宙駆ける蒼い鳥】

2010.01.05

category : 月光蝶である!

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「チハヤちゃん!」

ユキホが加速、炎に包まれていくチハヤ機へと向かった。

「チハヤちゃん、上に!」

コスモスがチハヤのクゥエルの下に滑り込み、ショックコーンがクゥエルを包む。

「こちらはこのまま降下します!ミキちゃんとヒビキちゃんはそのまま降下して地上部隊に連絡を!」

そう言い終わると同時に、プラズマの炎に阻まれて通信途絶。

ミキとヒビキは頷き合うと、全ブースターをパージしてバリュートを展開した。

ハルカはしばらくチハヤの消えた方角を見つめていたが、マコトに外部から強制的にバリュートを展開させられ、地球へと降下していった。

「チハヤ機とコスモスの軌道予測、完了しました。この軌道だと、ジャブローに降下します!」

オーバーマスターの艦橋、オペレーターがシジョウに告げた。

「ジャブローですか……それなら、安心ですね。」

ずっと肩をこわばらせていたシジョウだったが、報告を聞いて大きくため息をつく。

「敵艦は?」

「現行の軌道を維持、衛星軌道を回るもようです!」

「では、こちらは予定通り加速、グリプスに向かいつつジャブローにレーザー回線通信を開いてください。」




減速が終わり、バリュートを包んでいたプラズマの炎が少しずつ消えていく。

頃合か、とヒビキはバリュートをパージ、隣を見やる。

[ヒビキ!]

[ミキ、無事か!?]

互いに無事を確認し、下方に視線を送る。

眼下に広がる雲海、だが。

[下で……戦闘してるの!]

その先に、パラパラと起こる光。

[で、しかもアイツらが一緒に降下してきてる……]

そう言うヒビキの視線の先には、ハルカとマコトのリック・ディアスが。

[どうする……?]





「ネモ5番機中破!帰還します!」

ガルダ級輸送艦「インベル」艦橋。オペレーター席に座るショートヘアの女性が叫んだ。

その言葉通り、煙をあげて艦へ向かってくるネモが一機。

他の機体は、遠くに居るもう一つのガルダ級と、そのMSと交戦している。

「5番機の帰還によって戦力20%減……だめです、もう持ちませんよ!」

その隣に座る男が、額に汗を浮かべ叫ぶ。

「艦長、ここは引いた方がいいんじゃあ……」

さらにその隣、メガネをかけた女性が言った。

「なりません!我々がここを引いたことろで、大気圏に再突入し、ジャブローを脱出して疲弊しきった部隊の犠牲を増やすだけです!」

艦長席に立つ初老の男性が、歯をくいしばって言う。

「しかし……」

眼鏡の女性が、次々と増えていく艦の損傷個所を目で追いながら言った。

「まだ、なのですか……!」

懐から懐中時計を取り出し、歯ぎしりをする艦長。

その時。

「0方向より熱源4!MSと思われます!雲とミノフスキー粒子で識別信号は確認できませんが……」

雲を突き抜けて二本の光が走り、それぞれがネモとハイザックを撃ち抜いた。

「なんですと!」

艦長……ジョセフ・シンゲツが驚いて顔を上げた。

「識別信号確認、エゥーゴとティターンズ、2機ずつです!」

[こちらエゥーゴ765隊、ハルカ・アマミとマコト・キクチです!]

雲を突き抜けて、パラシュートを展開したハルカ機とマコト機が現れる。

「こちら連邦軍……おっと、今は裏切りの身、カラバのギョクト隊です。援護、感謝します。」

通信機の向こう、見えない相手に向かって律義に敬礼するジョセフ。

[ボクのディアスはこのまま戦闘可能です!ド・ダイの射出を!]

[私は腕をやられていて無理です!ネモの予備は?]

「分かりました、ソレワさん!」

ジョセフが頷き、ショートヘアの女性、ソレワに言った。

「了解、ド・ダイ射出!未来座標送ります!ハルカさんはそのまま後部デッキへ、ネモに乗り換えてください!」

ガルダの後部デッキから、MS用のサブフライトシステム、ド・ダイが射出される。

[了解!]

[マコト、ド・ダイに乗ったままじゃ格闘戦はできない!]

ド・ダイとの合流ポイントに向かうマコトに、ハルカがビームピストルを投げた。

「ありがとう!」

ピストルを受け取ったマコトはバリュートのブースターで減速、飛んできたド・ダイに飛び乗った。




「当たったの!」

雲を突き抜け、姿を現すミキとヒビキのクゥエル。

[ティターンズの船は……あれか!]

濃紺と黒、いわゆるティターンズカラーのガルダ級を見て、ヒビキが言った。

「こちらティターンズ961隊、ヒビキ・ガナハ少尉!そこのガルダ級、回収を頼む!」

[こちらはティターンズ、バスタルトニュータイプ研試験大隊『トゥリアビータ』です。回収準備はできています、しかし、3機編隊と聞いましたが。]

「一機は突入時の戦闘ではぐれた!救助にも向かいたいがとりあえずは無事だろうし話は後だ、補給を!」

[分かりました。後部ハッチが開いています。]

「了解!」

ヒビキとミキはそう言うとパラシュートをパージ、ガルダの後部へと潜り込み、デッキに飛び乗った。

そしてバリュートもパージ、整備用のハンガーに機体を固定。

多くの整備兵が機体に取りかかる中、ヒビキとミキはコックピットを降りた。

「ぷはっ!」

ヘルメットを外すと同時に、ヒビキの長い髪が溢れ出る。

「地球の重量も久々だなぁ……ミキ、大丈夫か?」

ヒビキがミキを振り替える。

「空気は良い匂いだけど、胸が重いの。」

同じくヘルメットを外し、不機嫌そうにポニーテールの髪をいじるミキ。

「それ……チハヤの前では言わない方がいいぞ……」

苦笑するヒビキ。

「ティターンズきってのエース部隊だと聞いていだが……女なのかよ……」

そんな会話を交わす二人を見て、兵の一人がそう呟く。

それを一睨みし、

「艦長はどこだ!補給中に話がしたい!」

ヒビキが叫んだ。

「ここです。」

それに応え、人混みを分けて現れた一人の男。

鋭く細い目に短い髪、中肉中背の身体に、コートをまとっている。

「トゥリアビータNT研究所、所属部隊長のカラス・グランドロッジです。ようこそ、『ヌービアム』へ。」

そう言って、握手をと手を差し出すカラス。

「よろしく……お願いします。」

ヒビキは敬礼しようとした手を戻し、握手する。

「我々は実験部隊。正式な階級は与えられておりませんし、ティターンズの士官殿が敬語を使うほどの者でもありません。お気になさらず。」

「分かった。……まず、補給はどれくらいで済みそうだ?」

「合流は予定通りでしたので、追加ブースターは既に用意はしてあります。……しかし、仲間を助けないでよろしいのですか?」

「ユキホ……オペレーターも一緒だし、チハヤなら放っておいても大丈夫だ。」

「なるほど、信頼の賜物ですね。」

毅然と言うヒビキに、カラスは苦笑する。

「ミント級と一緒だから、最寄りの基地くらいまでには行けるはず。戦闘が終わったらオーバーマスターとコンタクトを取って、効果予想地点付近の基地に連絡を取ろう。」

「分かりました。」

恭しくカラスが礼をした、そのとき時、

[艦長!今すぐ艦橋にお戻りください!]

艦内放送が響き渡る。

「どうした!」

携帯端末を取り出すカラス。

[敵に増援が二機、我が方のMSを次々と……!]

「あいつらだ!」

端末をのぞき込み、ヒビキが怒鳴る。

「エゥーゴの部隊、ですか……」

「自分達はクゥエルで待つ!補給を急いでくれ!……ミキ、起きろ!」

ヒビキが、会話の間に立ったまま寝ていたミキを叩き起こす。

「あふぅ……ミキ眠いの。」

「ああもう、チハヤがいないといつもこうだ!」

忌々しげに地団太を踏み、

「ミキ!エゥーゴに地球を汚されて良いのか!?」

ミキの肩を掴み、怒鳴るヒビキ。

「それは嫌なの!」

するとミキは目を見開き、肩を掴み返す。

ヒビキは大きくため息をつき、

「行くぞ、出撃だ!」

ブースターの換装作業を終えつつあるクゥエルに駆け寄り、昇降機でコックピットへ。

「分かったの!」

ミキも慌ててそれに続く。

「シャワーくらい浴びたかったのに……」

苦い顔でパネルを操作、ヘルメットを被るヒビキ。

「少尉殿、換装終わりました!」

コックピットを閉めようとしたところで、整備兵の一人が顔を覗かせ敬礼する。

「ありがとう!」

ゆっくりと閉まるコックピット、暗闇に包まれたのは一瞬で、次々にモニターが外の景色を映し出していく。

[現在の戦況、送ります!]

ブリッジから送られてきた戦況。今まで優勢であったティターンズ部隊が、ハルカたちによって次々と撃破されている。

戦況を確認しながら、それぞれ別のド・ダイに乗り込む二人。

「ヒビキ、出るぞ!」
「ミキ、行きます!」

掛け声とともに、ド・ダイに乗ったクゥエルが飛びだす。

「そこっ!」

同時、ハルカのネモが放ったビームがハイザックを貫いた。

「ハルカ、増援だ!……あのクゥエル!」

ビームピストルを乱射しながら、マコトが言った。

「やっぱり出てきた…!」

突進してきたハイザックをかわし、ビームサーベルを投げつけるハルカ。

サーベルはコックピットに突き刺さり、ハイザックは爆散する。

その爆炎を突き破ったハルカが狙いを定め、発砲。

「甘いの!」

ミキはそれを難なく回避、反撃した。

「ミキ、大丈夫か!」

「ここは任せて欲しいの!チハヤさんを困らせた奴は許せない!」

そう言って、ミキはハルカに突進していく。

「それは自分も同じだけど……なっ!」

言いかけて、ヒビキは自分を狙う別のネモに気付いて発砲、撃墜。

「ハイザック部隊、ネモを抑えてくれ!自分達はエースをやる!」

振り向きざまに、黒いリック・ディアス、マコトに向かって突進する。

「うおおおおおおおおおおおっ!」

第三話-高度五万米(後編)-【宇宙駆ける蒼い鳥】

2009.12.08

category : 月光蝶である!

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・ネタバレ
アイマス界きっての人気者、あの男が死にます。







「ハルカ、リック・ディアス、行きます!」
「マコト、リック・ディアス、行きます!」
「こちらネモ、タナベ機発進します!」

ラーディッシュ級、両弦のカタパルトからMSが発進する。

[チハヤさんの乗っている戦艦からも、MSと思しき光を確認しました!たぶん、チハヤさんも……]

直後、ヤヨイからの通信。

「チハヤちゃん……!」

ハルカが歯を食いしばり、ペダルを奥深く踏み込んだ。

[ハルカ、飛ばしすぎ!]

全力噴射するハルカを慌てて追いかけ、マコトがその肩を掴んだ。

「でも、」

「チハヤだってきっとこっちに気付いてる、ちゃんと会えるよ!それより、大気圏突入に気を付けなきゃこっちが死んじゃうよ。」

「………分かった。」

うつむき、ハルカは突入軌道を再確認。

バリュート展開高度到達10分前に会敵、

…………その間に、説得しないと。

[ハルカちゃん、焦るのは良くないぞ!]

「タナベさん。」

随伴していたネモも、ハルカ機の肩を掴んで言った。

「分かりました。……チハヤちゃんも、きっと分かってくれる……よね。」

[もちろんだよ!チハヤは仲間だもん!]




[計算結果出ました!バリュート展開高度到達10分前……あと少しで会敵します!]

ユキホが、コスモスのパネルを操作しながら言った。

「ありがとう、ユキホ!」

チハヤも、クゥエルのブリーフィングモニターで軌道を確認する。

[チハヤさん、あれって誰なの?]

昨夜のヒビキとのやり取りを知らないミキが、チハヤ機の肩を掴んで言った。

「私の古い親友よ。星の屑以来、会っていないけど。」

[お友達なの?じゃあなんでエゥーゴに……]

「私にも分からない。ハルカだって、コロニー落としで親族を亡くしているのに。」

思いつめたようなチハヤの声。

[チハヤちゃん、機影を確認、そっちに送ります!]

その時、ユキホから通信が入る。

コスモスの高性能カメラが捉えた敵部隊。黒とピンクのリック・ディアスと、一機のネモ。

「あの黒いのは……もしかして、マコト?」

チハヤは全身のスラスターをチェック、

「フェアリー隊、アローフォーメーション!ピンク色のリック・ディアスを鹵獲するわよ!ユキホは後方から支援!」

[了解!]
[了解なの!]
[分かった!]



「来る!」

軌道上の光を見て、ハルカがビームライフルを構える。

[え、でもまだ……]

スラスターの光が見えただけで、まだ光学センサーでは捉えられていない。戦闘開始はまだだろうと思っていたタナベ。

だがその瞬間、3機の間を光が駆け抜けていく。

「ミキ!?」

[チハヤさんを、困らせたらダメなの!]

慌てて振り向いたチハヤの目に入ったのは、遥か彼方に向かってビームライフルを構えるミキ。

「待ちなさい、ミキ!」

[あのピンクのリック・ディアスを捕獲するんでしょ?なら他のは!]

そう言って、さらにもう一発。

[うおお!?]

今度は、タナベ機の肩ギリギリを掠める弾道。

[チハヤさんのお友達がエゥーゴの仲間になるわけ無い!きっと騙されてるの!]

さらに一発、二発。

いずれも直撃こそないが、確実にその近くを走り抜けていく。

「いい加減に……!」

チハヤとは別の二つのプレッシャーを押しのけ、ハルカはライフルを構えて発砲。

ミキが慌てて回避運動をとり、直撃から逃れる。

「チハヤちゃん!」

敵がひるんだのを確認して、チハヤへと突っ込んでいくハルカ。

「チハヤちゃん、どうしてティターンズなんかに!」

ライフルを腰に、チハヤ機を掴んでハルカが言った。

「ハルカこそ、なんでエゥーゴ……ジオンの残党なんかに!」

チハヤも武器を収め、ハルカ機を掴む。

「エゥーゴはジオンの残党なんかじゃない!ティターンズこそ、私兵軍団じゃない!」

「私は、私達は地球連邦軍の士官よ!?」

目に涙を浮かべ、チハヤが叫ぶ。

あんなに一緒に過ごしてきたのに。

チハヤの頭の中を、かつての日々が駆け巡る。

どうして、どうして分かってくれないの……?

「チハヤさん、泣いてるの?!」

ミキが、今度は射程距離に入ったハルカにしっかりと狙いを定める。

チハヤが近くに居るが、この距離なら外さない。

「でりゃあああああああっ!」

だが、マコトがそのライフルを蹴り飛ばした。

「邪魔しないで欲しいの!」

「そうはいかない!」

右手を振りかぶり、ミキに叩きつける。

ミキはそれを素早く下方に回避、ビームサーベルを引きぬいた。

「こいつッ!」

[チハヤちゃん、ヒビキちゃん、ミキちゃん、突入限界まであと3分!]

ユキホの言うとおり、あたりに摩擦で発生した炎が舞い始める。

「ミキ!」

「君の相手は俺だ!」

ヒビキがミキ援護に入ろうとするが、そのライフルをビームが貫いた。

「なんで前に出てくる!」

追加ブースターの途方もない出力で高速移動、素早く抜刀したサーベルを投げつける。

「ぐわあっ!」

ビームの刃がタナベ機のバリュートをかすめ、タナベ機は体勢を崩す。

「なんとおおおおおおおおおっ!」

さらにそこに、全推力でショルダーチャージを叩きつけるヒビキ。

二人ともにバリュート展開限界高度と速度を突破、摩擦で機体が火を吹き始めるが、ヒビキはタナベ機を踏み台にスラスター全開で上昇した。

「な……!」

「誰がお前なんかと一緒に燃え尽きてやるか!」

ヒビキの押しつけたベクトルに抵抗していたタナベ機の質量と、大気圏の短時間飛行も可能なクゥエルの追加ブースター。

ネモだけが地球側に吹っ飛ばされ、ヒビキは限界高度から離脱する。

「くそッ、バリュートは………!」

慌ててタナベはバリュートを展開しようとするが、さっきの損傷のせいで開かない。

「機体表面温度1000℃突破……嫌だ、助けてくれぇ!」

「タナベさん!」

ハルカが助けようとするが、届くはずもなく。

「うわぁぁぁぁぁ!」

大気摩擦で分解、燃え尽きるネモ。

「チハヤ、こっちもそろそろヤバいぞ!」

刻一刻と上がっていく機体表面の温度計を見て、ヒビキが言う。

「くっ……!」

だが、ハルカから手を離そうとしないチハヤ。

ハルカも、チハヤから離れる気配はない。

「何してるんだ!自分のクゥエルはもう推進剤が無い!」

「でも………」

ハルカを掴んだところで、次の言葉が出ない。

またいつ会えるか分からぬ戦場に戻らなくてはいけないのか。

……初めての、親友なのに!

「チハヤちゃん!」

その時、ユキホが二人の近くにコスモスのバルカンを放つ。

もちろん牽制、離れてくれればと思ってのことである。

目論見通りハルカは回避運動をとり、チハヤから離れた、が。

「邪魔をしないで!」

激昂したハルカが、コスモスにビームライフルを向ける。

大気圏突入と若干の大気圏内飛行能力しか持ち合わせていないコスモスに、回避が可能なはずもなく。

ハルカのリック・ディアスの腕が、ビームに貫かれた。

「チハヤちゃん?!」

驚いて振り向いたハルカの目に映ったのは、ビームライフルを構えるチハヤ機。

「あなたは……」

ビームライフルを腰に収納、両肩のビームサーベルを引きぬく。

「あなたはユキホにまで銃を向けるの!?」

「ユキホちゃん!?あれが!?」

ハルカが感覚を研ぎ澄ますが、感じるのは二丁拳銃のクゥエル、ミキからのプレッシャーだけ。

……この気に圧されて、ユキホちゃんが分からなかった……

「あなたは、もう私の知ってるハルカじゃない!」

サーベルを構え、ハルカに突進するチハヤ。

「待って!本当に分からなかった……」

弁解するハルカだったが、チハヤは耳を貸さない。

……ハルカはいつも天心万蘭、何があっても笑っていて、それが素敵で、でも、何かあっても、

「いつも、そうやってとぼけて!」

目に涙を浮かべ、チハヤは叫んだ。

「チハヤちゃんこそ、チハヤちゃんこそ、そうやっていつも意地を張って!勝手すぎるよ!」

今度はハルカの怒りが爆発する番だった。突進してくるチハヤをかわし、

「チハヤちゃんの、分からず屋!」

クゥエルに強烈な蹴りを食らわせる。

「な……」

追加ブースター大破、自分で行った加速も相まって、きりもみしながらバリュート展開限界高度と速度を突破。

「しまった!」

我に返ったハルカが叫ぶが、時すでに遅し。

チハヤは全ブースターをパージ、バリュートを展開しようとするが、

「突入角が……」

大気に弾かれるような角度ではないが、この角度で地表まで降下すればおそらくバリュートが持たない。

「くっ……このままでは!」

軌道変更をしようにも、ブースターはすでにない。

「チハヤちゃん!」

ユキホが加速、炎に包まれていくチハヤ機へと向かった。

第三話-高度五万米(中編)-【宇宙駆ける蒼い鳥】

2009.12.03

category : 月光蝶である!

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「作戦開始時刻まで、あと5、4、3、2、1」

モンデンキント艦橋の時計と共に、ヤヨイがカウントする。

00:00

「作戦開始、全エゥーゴ艦隊は双曲線軌道へ加速開始!本艦は長蛇円軌道へ復帰可能なコースからMS隊の降下を援護しますっ!」

「機関最大、MS部隊、発進準備!」

「機関最大、出力臨界まで上昇。軌道変更、キュウイチナナニイ!」

メインモニターに地球の模式3Dグラフィックと、超蛇円、双曲線、艦の現行軌道が表示される。

[MS部隊、発進準備。ハルカさん、マコトさん、準備は良いですか?]

ヤヨイの指がパネルの上で舞い、ハルカとマコトを画面に呼び出す。

「あたしはいつでも大丈夫!」

リック・ディアスのコックピット、ハルカが親指を上げた。

「こっちも大丈夫だよ!さっすがリツコの整備!」

マコトも、いつものガッツポーズ。

「一応、連邦軍艦隊が突入を邪魔できないような突入路を取ってるはずなので、出番が無い方が良いんですが……」

うつむき、ヤヨイは言う。

するとマコトは笑って、

「連邦のことだし、案外楽に騙されて……」

[軌道面南より追尾する艦、二隻!ティターンズのボスニアとアレキサンドリアです!]

「マジ!?」

コトリの報告に、あわてて操縦幹を握りなおすマコト。

[MSと思しき光を確認、確認出来るだけでも十機以上は!]

[ハルカちゃん、マコトちゃん、出撃、良い?]

「はい!」
「もちろんです!ヤヨイ!」

「了解です!ハルカ機、マコト機、射出準備!」

MSハンガーからエレベーターに乗って、バリュートを装備したハルカとマコトのリック・ディアスがカタパルトに現れる。

[突入限界点はもちろん、第二波に備えての補給も考えると、かなりギリギリでの戦いになるわ。二人とも、回収時間と高度に気をつけて。]

「わかってます!」

「進路クリアー、発進どうぞ!」

「ハルカ機、行きます!」
「マコト機、発進!」

火花を散らし、カタパルトが二機を押し出す。

[敵は味方のMS突入部隊の後ろを取っています!突入部隊は陣形を崩すことができないので、援護してあげてください!]

「分かった、ありがとうヤヨイ!」

[……っ、最後尾のシチリアが食われました!]

「展開が早い!急いで、ディアス!」

スラスター全開、降下部隊に追いつくハルカ。

「こちら765部隊、ハルカ・アマミ!突入を援護します!」

追撃部隊を食いとどめようと闘う濃紺のリック・ディアスに、ハルカが言う。

「こちらアーガマのエマ・シーン。援護感謝します。」

リック・ディアスはこちらを一瞥、中の女性が言った。

「はい!」

エマに並び、背中のビームピストルを二丁拳銃にして弾幕を張るハルカ。

「エマ……さんでしたっけ、突入部隊なんでしょう?ここは私が支えます!」

「そんな、あなただけには……」

「でりゃああああああああああああっ!」

その時、敵部隊の一機がマコト機に殴り飛ばされる。

「味方も居ます、大丈夫です!」

マコトに気をとられた敵機に、ハルカが二丁拳銃を撃つ。

光の束は二発とも命中、慌てて回避運動に入ろうとした敵を、再びマコトの拳が撃ち抜いた。

「凄い………!」

その連携に、呆気にとられるエマ。

「エマさん、ここは大丈夫です、だから!」

「分かったわ!」

そう言って、エマが後退しようとした時。

「ティターンズの暴虐を抑えるために、ジャブローを叩く。………分からんでもない、が!」

彼方からビームが飛んできて、エマ機の肩を貫いた。

「きゃああああああっ!」

「エマさん?!」

慌てて火線に目を向けると、凄まじい速さで接近する機体が。

「ティターンズには、まだ使い道があるのでね!」

「モビルアーマー?!」

鋭く尖った先端に、ラッパのようなブースターを2機積んだ機体。

ハルカが発砲するが、その機体は竜巻のような機動で全て回避する。

「ダメ、早すぎる!」

「だったら近づいて!」

マコトがブースター全開で接近、拳を振りかぶった。

「ナメるな、小僧!」

「ボクは女だーッ!」

怒り心頭のマコトが、まさに拳を叩き込もうという瞬間。

モビルアーマーが、モビルスーツに変型した。

「こいつ、変型した?!」

後部の4つのブースターのうち、2つが足になり、2つが肩のビーム砲に、先頭部分が胸部装甲に。

そして、その巨大な足がマコト機を蹴り飛ばす。

「マコト!」

「ぐぅぅっ……ボクは大丈夫!今のうちに……」

「…分かった!」

腰から試作ライフルを取り出し、回し蹴りを決めた機体に狙いを定めるハルカ。

その時、ハルカの体を走り抜ける違和感。

水の中に入って全身が圧迫されるような、心臓が握られているような。

「この程度の……プレッシャー!」

圧迫感を払いのけ、ハルカは引き金を引いた。

「……言葉が走った!?」

その膨大な推力を以て回避しようとしたコックピットの男の手が、止まる。

放たれた光の束が、肩のビーム砲を貫いた。

「ええい!この私がプレッシャーに押されるとは!」

反撃しようとするが、ビーム砲の損傷が激しくかなわない。

「これで、決める!」

ハルカが再び狙いを定めるが、

「くっ……重力の井戸に引かれるのはゴメンだ!」

敵機は反転、彼方へ消えた。

「行って………くれた?」

軌道に残る光の筋を追いながら、ハルカは言った。

「なんだったんだろう……」

マコトも、自機の損害を確認しながら言う。

「ありがとう、助かったわ。」

ボロボロになったエマ機が、ハルカ機の肩を掴んで言った。

「でも、その状態じゃあ。」

「地球に降りれなかったのは残念だけど、それは私の力不足。構わないわ。」

「はい………」

うつむくハルカ。

[ハルカさん、マコトさん、突入部隊全機が大気圏突入軌道に乗りました!こちらの大気圏突入作戦まであと一時間、いったん戻ってください!]

モンデンキント、ヤヨイからの通信。

「MS隊の被害状況は?」

「想定の範囲内、作戦に支障ありません!ハルカさんのおかげですっ!」

「分かった、今から帰還します!」





「敵MS部隊の突入を許してしまったというのですか!?」

オーバーマスター艦橋、ノーマルスーツに身を包んだチハヤがシジョウに食って掛かる。

「残念ながら。敵の被害は1割にもみたないと。」

艦長席に座ったまま、シジョウは言った。

「だから私達を作戦から外すなんて……!」

「見苦しい。おやめなさい、チハヤ・キサラギ。」

「しかし!」

「貴方達の戦力は、これから激化していくエゥーゴとの対決に欠かせないものです。それを、事故のような死因が多い大気圏突入作戦で使うわけにはいきません。」

「くっ……」

「分かったなら、持ち場につきなさい。もう発進でしょう。」

「………分かりました。」

しかし、それにしても……

チハヤが去り、艦橋のドアが閉まるのを見て、シジョウは思う。

グリプスへの本拠移転を進めている今、あまり攻撃を受けるのは得策ではないはず。我々を除け者にしてまでジャブロー防衛の人員を減らすとは………やはり、不自然。

………悩んでいても仕方ありませんね。

自嘲気味に笑い、顔を上げた。

「大気圏突入作戦、開始!」

[軌道変更開始!クゥエルへのバリュート装備及び大気圏突入艇準備完了!]

[MS部隊、大気圏突入まで15分!発進準備!]

オーバーマスターのオペレーターの声と共に、カタパルトに出現する3機のクゥエル。

眼下には青い地球、クゥエルの背中には不恰好なバリュートが、ブースターを避けるように少しずらして装備されている。

[今のところ周辺に敵影はありませんが、油断はしないで下さい。万一会敵しても交戦はなるべく避け、大気圏降下を最優先に。]

「了解です、シジョウ中佐。」

クゥエルのコックピットパネルを操作しながら、チハヤは言った。

「バリュートシステムオールグリーン、これより大気圏突入ミッションを開始します。………ミキ、ヒビキ、準備は良い?」

「もちろんなの!」

「大丈夫だぞ!」

二人の元気な返事にチハヤは頷き、

「クゥエル、チハヤ・キサラギ。」
「ミキ・ホシイ!」
「ガナハ・ヒビキ!」

「フェアリー隊、発進!」

「「「いきます!」」」

カタパルトが火花を散らし、クゥエルを押し出す。

[続いて、ミント級大気圏突入艇『コスモス・コスモス』、発進準備!ユキホ少尉、準備はよろしいですか?]

カタパルトに出現する、平たいシルエットの舟。

旧ジオン軍のコムサイよりも一回り小さく、かといってミルク級の一人乗り用という訳でもない。

大気圏突入用のド・ダイといったところか。

「大丈夫ですっ!先行のチハ………もといフェアリー隊捕捉、軌道追従設定完了!」

その中、クルー用のノーマルスーツを着たユキホが言った。

[ユキホ、地上での彼女たちのサポートをお願いします。]

「了解です、中佐!」

[進路オールグリーン、コスモス、発進させます!]

膨大な推力で、大気圏突入艇コスモスが発進する。

「大気圏突入軌道上に、敵影なし。」

「とりあえずは、何事も……」

小さくため息をつき、席に座りなおすシジョウ。

「もとい!」

警報音と共に、オペレーターが叫んだ。

「正面よりこちらに接近する艦影!今まで熱を潜めていたようです!」

「急いで解析を!」

「……解析完了、ルナツーで交戦した艦と思われます!」

[それ、本当!?]

オペレーターの報告に、チハヤが割って入る。

「はい、熱紋から見て間違いないかと……」

「MSらしき光を確認、数3!」

[チハヤさん、またアイツが来るの!]

光を見て、ミキが叫んだ。

「ハルカ……!」
プロフィール

リンゴ・t

Author:リンゴ・t
アイマスが好きです、でもガンダムは人生です。

im@s架空戦記「宇宙駆ける蒼い鳥」好評連載中!

その他にも雑記、オリジナル小説上げるかも。

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