林檎亭

(´・ω・`)やぁ。 ようこそ林檎亭へ。

スポンサーサイト

--.--.--

category : スポンサー広告

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第六話-月に愛、大地に火(前編)-【Blue Arcadia】

2011.01.25

category : Blue Arcadia 本編

comment(0) trackback(0)

【月面都市フォン・ブラウン アームストロング広場】

「イオリちゃん!」

広場の中心にある噴水、その前に立つイオリにヤヨイが駆け寄る。

「ヤヨイ!遅いじゃない!」

微笑み、手を振るイオリ。

「ごめんね、イオリちゃん、遅くなっちゃって。」

「あれー!いおりんがデコちゃんじゃなくなってる!」

ヤヨイの後ろ、アズサとアミ、マミが手を振り返す。

「デコちゃん言うな!いつまでも私も子供じゃないの!」

イオリが、その額を隠す切りそろえられた髪をかき上げて言った。

「本当、1年ぶりかしら?元気そうで何よりだわ。」

微笑むアズサ。

「アズサも元気そうね。」

「お陰さまで。……月の様子はどう?」

微笑から一転、アズサの表情は真剣なものになる。

「……ティターンズもちょくちょく来るけど、まだまだ月はエゥーゴ寄りよ。」

声を潜めるイオリ。

「ティターンズにMSを一機種納品したけど、リック・ディアスに比べれば性能は低いものだし。」

「助かるわ。手に入れたムーバブルフレームの情報から、新しくMSを作ってくれているとも聞くし。」

言って、アズサは噴水に腰掛けた。

「上層部は儲かればいいと思っているから、そんな風に思うことはないわ。」

イオリもその隣に座り、肩をすくめる。

「アズサお姉ちゃん、ちょっと他見てきていい?」

真剣な表情で話し始めた二人を見て、アミが手を上げた。

「良いわよー、迷子にならないようにね。」

「ならないよ!ほら、ヤヨイっち行こう!」

「ああ、アミ、マミ!」

そう言ってヤヨイの手を取ったアミとマミを、イオリは呼び止める。

「何、いおりん?」

「そちらに送るモビルスーツの設計書を見せたいの。7時までには戻れる?」

「りょーかい!楽しみにしてるー!」

そう言って、広場の外へと消えていく3人。

「どんなモビルスーツをくれるのかしら?」

それに手を振りながら、アズサは言った。

「リック・ディアス数機の追加納入と、あとは新型をいくつか。」

指折り数えるイオリ。

「リック・ディアスはありがたいけど、他の機体は……?」

アズサが、首をかしげた。

「体の良いモルモットと思ったらごめんね、」

目を伏せるイオリ、

「とんでもないわ。戦力をくれるだけありがたいもの。」

アズサが、慌てて首を振る。

「カミーユ・ビダン、知ってる?」

「Mk=Ⅱ強奪に手を貸してくれた民間人……だったかしら?」

「そう、その少年が設計したMSがあるの。」

「民間人が……?」

「フランクリン大尉とヒルダ中尉の息子よ。こちらでもちゃんと設計図のチェックはしているし、問題ないわ。」

疑わしげに首を傾げるアズサに、イオリは言った。

「百式、あれもそのMSの試作機だと言ったら、信じてくれる?」

「んー、話は分かるけど……そのMS、名前はなんていうの?」

あくまで半信半疑、と顎に指を当てるアズサ。

イオリはあたりを少し見回し、口を開いた。

「……『Ζ』。」




「久しぶり!アイちゃん!」

ガルダ級『インベル』格納庫。ハルカが、アイに抱きついた。

「お久しぶりですっ!ハルカさん!」

抱きつき返すアイ。

「ハルカさん、お久しぶり?」

一足遅れて格納庫に滑り込んだガードカスタムのコックピットから、エリが顔を出した。

「エリちゃんも!大丈夫だった?」

「機体はやられちゃったけど、私は大丈夫です。」

エリが昇降ロープを滑り降り、ハルカのもとに駆け寄る。

「良かった!リョウくんは?あと、ユメコちゃん!」

エリにも抱きつくハルカ、エリはぎこちなく抱き返しながら、

「ええと多分、今、引き揚げられてる?」

格納庫のハッチを見やった。

言うとおり、クレーンが唸りをあげている。

ゆっくりと、海水を滴らせたジム・カスタムが姿を表した。

「うわぁ、ボロボロ。」

リック・ディアスを固定し終えたマコトが言うとおり、ジム・カスタムの肩は外れ、全身のバーニアは焼き付き、当然、足の各関節も過負荷で使いものにならない状態。

「リョウさん、大丈夫なんでしょうか?」

「リョウくんならきっと大丈夫だよ、迎えに行こう!」

走りだすハルカ、三人はあとを追う。

「オーライ、オーライ!そこまでで良いデス!」

クレーンの下、誘導する金髪の少女。

「サイネリア、お疲れ様。」

エリがその肩に手を置いた。

だが、金髪の彼女、サイネリアはその手を払い除け、

「センパイ!センパイこそお疲れ様デス!」

振り返って抱きついた。

「ううん、いっぱい壊しちゃったからまたお願い、ね。」

「センパイのためなら何のそのデス!」

やんわりと肩を抱くエリ、サイネリアはエリの肩に頭を押し付けるように食いつく。

「ありがとう、サイネリア。」

やんわりとサイネリアを引きはなし、エリは回収されたジム・カスタムに歩み寄った。

「リョウさん、大丈夫ー?」

空気圧の軽い音と共に、コックピットハッチが開く。

「ふはぁ、ようやく広くなった。」

「ちょっとリョウ、早く出なさいよ!」

「いや、オザキさんが出てくれないと……」

「え、私?」

コックピットの中でひしめき合う4人の人影。

「オザキさん、大丈夫?」

「エリ!お疲れ。」

「なんだ、ロン毛まで一緒だったんデスカ。引き揚げるんじゃ無かったデス。」

コックピットの中のオザキを見て、肩をすくめるサイネリア。

「あら、私は感謝してるわよ、スズキさん。」

対してオザキも、開いたハッチに足をかけていった。

「ファミリーネームで呼ぶなって何度言ったら分かるんデスか!!」

猛然と手に持っていたレンチを投げつけるサイネリア、風を切るレンチはコックピットの縁に弾かれ、あさっての方向に飛んで行く。

「サイネリアさん、落ち着いて……」

コックピットを降りたリョウが微笑み、なだめにかかるが、

「うるさいデス!モヤシ野郎に何が分かるんですか!」

サイネリアが今度はトーチガンをリョウに向けた。

「サイネリア、落ち着いて、ね?」

「むむむ……」

エリにその腕を掴まれ、渋々とトーチガンを腰に戻すサイネリア。

「皆さんお揃いですね。無事で何よりです。」

その時、格納庫入り口からの声、ジョセフだ。

「整列!」

ジョセフを見たリョウの掛け声。

慌ててコックピットを飛び降りるオザキ、マナミ、ユメコ。

ジョセフの前、一列に並び、

「リョウ・アキヅキ少尉以下モビルスーツパイロット3名!」

「レイコ・オザキ以下オペレーター2名!」

「「カラバ、ギョクト隊への配属を受領いたしました!!」」

敬礼した。

「ご迷惑をおかけすることになると思いますが、また、よろしくお願いします。」

深々と頭を下げるジョセフ。

「もはや我々は、正義の味方ではありません。何があっても、保障は出来ませんが……」

「僕は、きっと、僕達は、ジョセフさんのやることが正しいって思っています。」

一歩前へ出るリョウ。アイも、エリも、マナミも、オザキも。

「……ありがとうございます。」

再び深く頭を下げるジョセフ。彼の回りだけ、音がないかのような立ち居振舞いだ。

「……盛り上がってるとこ悪いんだけど。」

その沈黙を突き破る、ユメコの不機嫌極まりない声。

「あ、ユメコちゃん……」

リョウが、しまった、と額に手を当てる。

「この船の操艦は、誰がやってるの?」

「え?」

「だから、この船の操艦は誰がやってるの、って。あのMAに襲われたのは想定外としても、被弾しすぎよ。MSの突破を防ぐのはMS隊の役目だけど、それまで帰る場所を守るのは船乗りの役目なの。」

ユメコが腕を組み、胸を張り言う。

「操艦は……ナラバさんがやっています。」

「そいつを操舵手から下ろしなさい。私がやるわ。」

ジョセフの返事に、ユメコは間髪入れずに宣言した。

「ユメコちゃん……」

顔をほころばせるリョウ、

「勘違いしないで!船乗りとしてガルダ級の操艦をしてみたいだけよ!」

むっつり顔でユメコは言うが、

「ありがとう、ユメコちゃん!」

リョウは聞いていない。満面の笑みで、ユメコの手を握った。

「勘違いしときなさいよ、もう。」

スポンサーサイト

第五話-再開の風(後編)-【Blue Arcadia】

2011.01.16

category : Blue Arcadia 本編

comment(0) trackback(0)

「こいつ、ビームを真後ろに撃つ!?」

「パナマで素直に補給受けといたら、こんなことにならなかったと思うんだけど!」

自分の後方に群がるネモを見て、リファが言った。

「連邦軍にも、いろいろと事情があるのですよ。……索敵情報を送ります。お母様の名前に泥を塗る事の無いよう。」

「分かってるって!」

「ここは私が支えます、ガルダを。」

カラスのアイザックの放った2発のミサイルがそれぞれ同時に、狙いすましたかのようにネモを撃墜した。

それを見たギャプランは再び反転、インベルの方へと突進する。

「しまった!」

ハルカが振り返った時には既に、凄まじいスピードで飛び去るギャプランはリック・ディアスの推力ではとても追いつけない距離にいた。

「両舷、対空砲座開いてください。敵のモビルアーマーを近づけてはなりません!」

インベルの艦橋で、ジョセフが声を張り上げる。

ほぼ同時に展開される弾幕。だが、ガルダ級の巨体を覆い隠すには届かない。

「まだ、来ないのですか!」

「無駄無駄!つかまえたよ!」

まともな人間ならとても耐えられないであろう激しい機動で弾幕をかわし、リファはインベルの艦橋をロックオンした。

「こちらもね。」

瞬間。

「何!?」

一筋の閃光が、ギャプランの機首を貫いた。

「ビームライフル!増援なのか!?」

急旋回、射線の源に向き直るギャプラン。

「遅いって!」

今度は背中のブースターを、光が貫く。

「ジム・カスタム……こんな骨董品に!」

黒煙を吹き上げるギャプラン、ほうぼうの体になりながらもリファは体勢を立て直した。

リョウのジム・カスタムが、ライフルを構え突進する。

[リファ・バスタルト!それでも強化人間ですか!]

高度を下げるギャプラン、通信から聞こえる、カラスの苛立った声。

「撤退するしかないのか!」

爆発しつつあるブースターを取り外し、反転。

「こちらリョウ・アキヅキ、お待たせしました!」

「待たされましたよ、アキヅキさん!このまま我が艦の援護を続けてください!」

「了解です、エリちゃん!」

そして、リョウが振り返った遥か後方。

「あのアイザック、戦況を全部把握してる?」

飛び立ったミディアから少し離れた場所、ジム・ガードカスタムのコックピットでエリは言った。

旧式のコックピットの肘掛に、ノートパソコンのような端末を取り付けたもの。

その端末に映るは、無数の文字列。

「レーザー回線割り込み開始。」

その言葉と同時に、メインモニターに現れるターゲットサイト。アイザックからのデータを元に、次々とロックオンしていく。

「レーザー回線……?なんだこれは、私は回線など開いていないぞ!」

アイザックに乗るカラスもそれに気づき、抵抗しようとするが、

「それは……無理?」

「ええい、これ以上は!」

ハッキングを止められず、自身の巨大な後頭部のアンテナにビームライフルを突きつけた。

「あ……」

「これで、索敵情報は盗めまい!」

発砲、巨大なアンテナが四散する。

だが。

「でも、もう充分。」

ガードカスタムの異名に相応しい巨大な盾を脇におき、ふくらはぎに装着されていた二丁のロケットランチャーを肩に担ぐ。

さらに脛に装着されたミサイルポッドの砲門が、腰のグレネードランチャーが展開。

「この距離からなら……マルチロック出来る。」

狙撃戦に特化したジム・スナイパーカスタムを素体に、重装甲を兼ね備えたガードカスタムタイプ。

さらに情報処理能力を限界まで強化したエリの機体が、十は固い数のハイザックをその砲口で捉えた。

常識を超えた数の弾頭が空を駆け、煙幕がエリのジムを包む。

「なんだぁ!?」

突拍子の無い攻撃に呆気に取られ、一番近くにいたハイザックは直撃を受け爆散。

「落ち着きなさい!ミノフスキー粒子が濃いのに、ミサイルが誘導するはずが無いでしょう!」

ミサイルの雨をかいくぐり、チハヤが言う。

「た、確かに……うおあああっ!」

だがミサイルのうちの一基が急カーブを描き、ハイザックに直撃した。

「赤外線誘導のミサイルが混じっている!?」

ミサイルに翻弄され、次々と撃破されて行くハイザック。

「ええい、宇宙人かぶれが調子にのるな!」

ビーム・マシンガンでミサイルを迎撃するカラス。

「カラス、攻撃の元を叩けば!ネモの面倒はミキが見る!」

チハヤが機体を反転させ、射線の元へ向かった。

「分かっています!」

カラスもハイザックを向かわせる。

「ガードカスタムタイプ、骨董品も骨董品じゃない!」

ハイザックに先んじて機体を見たチハヤが、驚きの声をあげた。

「見くびらないで!」

両手のロケットランチャーを投げ捨て、盾を再び構えるエリ。

盾に取り付けられた砲門が火を噴き、無数の弾丸がクゥエルを襲う。

だがチハヤは弾幕の中、盾を構えて突進。

肉薄、抜刀、サーベルを振りかぶる。

「くっ!」

盾を前に突き出し、サーベルを受け止めるエリ。

「弾薬満載の盾でサーベルを受け止めるなんて、大した度胸ね!」

「ガードカスタムは伊達じゃない!」

右手のサーベルユニットから光の刃が伸長し、千早のサーベルを跳ね除ける。

「自分だけ守れても!ハイザック部隊!後方のミディアを!」

[了解!]

鍔迫り合いを続けるチハヤとエリの脇を、ハイザック達が駆け抜けて行く。

「まだ!」

ガードカスタムの肩のランチャーが展開、

「そんなところにまで!?」

放たれる超音速のミサイルに、チハヤは退避行動を取る。

「それだけじゃない!アイちゃん!」

「突撃!」

瞬間、隣を駆け抜けようとしていたハイザックが巨大なビームに貫かれた。

「なんだ!?」

他のハイザックが慌てて盾を構えるが、耐ビーム加工を施された盾ごと貫く強力なビーム光の前に、次々と撃破されていく。

「さすが、サイネリアさんのチューンアップは凄いです!」

アイのジム・キャノンⅡが、ハイザックの群れを走り抜ける。

「お前ら、ジム・キャノンごときにビビるんじゃない!」

だが多勢に無勢、ハイザック達はエリとアイの後ろに抜けていく。

「ちょっと!アンタたちしっかり守りなさいよ!」

母艦たるミディア改に詰め寄るハイザックに、ユメコが悲鳴を上げた。

「ユ、ユメコちゃん、なんとかならないんですか?」

「対空砲火!」

艦橋の両舷についた対空砲が火を噴くが、ハイザックはお構いなしに突っ込んでくる。

その手に持ったビームライフルを壊すことこそ出来たが、

「面倒な真似を!」

ハイザックは空いた両手を組み、艦橋に叩きつけんと振り上げた。

「いやぁぁぁぁっ!」

頭を抱え、うずくまるユメコ。

「ユメコちゃん、捕まって!オザキさんと、マナミさんも!」

リョウのジム・カスタムが、上方から全速接近。

「敵!? いや、だが、遅い!」

「迷ってくれた!」

ライフルを投げ捨て、ビームサーベルを引き抜く。

「ブースターも落下速度で十分だ!エネルギー配分変更!ビームサーベル、最大出力っ!」

光の刃が伸長、モビルスーツの全長を超えたサーベルが、ミディアの機首を斬り取った。

落下する艦橋、ハイザックの両手は空を切る。

「ド・ダイ!持つか!?」

下へ回り込み、艦橋を受け止めるリョウ。

モビルスーツ2機を支える推力とフルチューンされたジム・カスタムのバーニアがが、ゆっくりと落下速度を緩めていく。

悲鳴をあげるバーニア、凄まじい振動。このままバーニアが爆発すれば、自分もユメコもただでは済まない。

「でも……いっけえええええええええ!」

パネルを操作、リミッター解除のパスワードを叩き込み、スロットルを限界まで開く。

水面すれすれでバックパックが小規模な爆発を起こし、ド・ダイとミディアの艦橋は着水した。

「ユメコちゃん、大丈夫?」

艦橋の上に這い上がり、リョウは言った。

「なんとかね……あなたは?」

「大丈夫。まだ敵はいるけど……」

「そのナリじゃ戦えそうにないわね。」

「ごめん。」

言うとおり、リョウのジム・カスタムは限界を超えた全力噴射にバーニアは焼け爛れ、過負荷によって関節からは火花が散り、何より武装も無い状態。

使い物にならなくなったバーニアをパージ、艦橋の隣に浮くド・ダイにリョウは腰かけた。



「リョウさんは、もう戦えない!?」

チハヤと鍔迫り合いを続けるエリが、海面に浮くジム・カスタムを見て言った。

「リョウ?リョウ?その声は、もしかしてミズタニさん?」

「やっぱり、チハヤさん!」

再び、エリのサーベルがチハヤを跳ね除ける。

「あなたまで宇宙人かぶれの味方を!」

「ティターンズは私兵だから!」

「宇宙移民は、自治権回復などと言っておきながら、一年戦争でそれ以上のものを地球から奪おうとして、そして未だに懲りていない!武力を使う!だからティターンズのような強権が必要で、それが私兵に見えるだけなのよ!」

チハヤはバルカンを掃射、ガードカスタムのビームサーベルユニットを破壊する。

「まだまだぁぁっ!」

盾を両手で掴むエリ。損傷した右手が悲鳴を上げるが、構ってはいられない。

マウントポジションをとろうと上昇するチハヤに、巨大な盾を叩きつけた。

「……っ!」

盾はコックピットに直撃、激しい衝撃、振動に頭が揺さぶられ、反転する天地に吐き気がする。

ド・ダイから引きはがされ、落下していくチハヤ。

「ハッチが!」

姿勢制御にこそ成功するが、コックピットのハッチが潰され、前方の映像が乱れている。

ビームライフルの標準を定めようとするが、乱れた映像のせいで微調整も叶わない。

「戦えない、なんて!」

ド・ダイを乗り捨て反転、ヌービアムへと引き返すチハヤ。

「良かった、帰ってくれた……」

元々損傷していたところに盾の重さが加わり、潰れた右腕を見てエリは言った。

「大丈夫ですかっ、エリさん!」

「うん、ありがとう。それよりも。」

「敵を追い払うんですね、分かります!」

未だ迫り来る敵に向かって、ビームを連射するアイ。

「リョウさんやエリさんに、寄せるわけにはいきませんっ!」

2門のビームキャノンがそれぞれの方向を向き、弾幕を張る。

「加勢する!」

十字を切るように、閃光が走った。

「ハルカさん!」

「やっぱり、アイちゃん!」

ハルカのリック・ディアスが、ハイザックを狙い打つ。

「本当に、しつこい!」

ハルカの放つビームが、次々とハイザックを撃墜していく。

「エース達は何をしている!全員後退しただと!?」

損傷した頭部を抱え、自身のアイザックも後退させるカラス。

ヌービアムの前部デッキに着艦し、

「撤退の信号弾だ!これだけの数になってしまえば、数で押すこともできん!」

ヌービアムから撤退の発光信号が打ち上げられる。

「発光信号?」

逡巡の後、踵を返すハイザック達。

「撤退……してくれた……。」

銃を下ろし、進路を変えるヌービアムを見るハルカ。

「やれやれ、ですな。」

インベルの艦橋でも、ジョセフが気張っていた肩を落とした。

「高度を下げます。不時着した、リョウさん達を迎えに行かなくてはなりません。」

「了解、インベル、降下します。」

ゆっくりと高度を下げていくインベル。

その背中を、沈まんとする夕日が照らしていた。

第五話-再開の風(中編)-【Blue Arcadia】

2010.08.22

category : Blue Arcadia 本編

comment(0) trackback(0)

林檎亭の物語を覚えている者は、幸せである(CV.若本)。

林檎亭の更新が、遅いから。

ここに、ミ・フェラリオの語る粗筋を載せる。



時に宇宙世紀0087年。かつて一年戦争で名を馳せた765独立部隊は、エゥーゴ765中隊と名を変えていた。

そこにはかつてのエースパイロット、ハルカ・アマミやマコト・キクチの姿もあった。

しかし同年3月、ラビアンローズでMk=Ⅱ強奪の報を、ティターンズの制服に身を包み聞いた彼女もまた、同765独立部隊のエースであったチハヤ・キサラギであったのだ。

チハヤ達961部隊一行は、エゥーゴのジャブロー襲撃を阻止すべくルナツーに寄港。その際にエゥーゴ艦隊と接触し、敵のMSに乗る者同士として、彼女達は最悪の再会を果たしてしまう。

チハヤと分かりあえないままに母艦「モンデンキント」への到達限界距離を迎えたハルカとマコトは宙域を離脱。ジャブロー強襲を終えたエゥーゴ部隊を支援するため大気圏に突入せんとするハルカ達は再びチハヤと出会うも、エゥーゴとティターンズにわかれた二人の溝は深まるばかりであった。

地上に降りても続く戦い、ジョセフ・シンゲツ率いるカラバのギョクト隊と合流した、経験と才能を兼ね備える765隊に、961隊のヒビキとミキは苦戦を強いられた。

大気圏再突入ではぐれたチハヤとの合流を果たした961隊は、ケネディポートから宇宙に脱出するエゥーゴ部隊を叩くブラン隊の援護として、再び765隊に戦闘を仕掛ける。

数で不利に立たされる765隊を援護すべく、キャルフォルニアベースを発つリョウ・アキヅキ達旧ミッシング・ムーン隊。
月面都市フォン・ブラウンで久々の再会を果たすアナハイム・エレクトロニクス技術一課長イオリ・ミナセとエゥーゴ765隊旗艦「モンデンキント」艦長アズサ・ミウラ。

さまざまな陰謀渦巻く宇宙世紀の大河は、その渦中にうら若き彼女たちをを巻き込み、激しさを増す。

敵味方に別れた彼女たちに、輝く宇宙でまた逢える日は来るのか?

君は、刻の涙を見る……







轟音と共にクゥエルは頭部を失い、ヒビキは悲鳴をあげる間もなく自由落下する己を感じた。

「くそっ、サブカメラは!」

暗闇に包まれたコックピットでパネルを操作、機体各所に設けられたサブカメラの回路をメインモニターに迂回させる。

画質はメインカメラに数段劣るが、

「撤退ぐらいしか………!」

目に浮かぶ涙を拭い、機体を反転させた。

「ヒビキがやられたの!?」

ネモの相手をしていたミキが反転、マコトにビームを放つ。

「ぐっ!」

「ミキ、私はネモの相手で手が離せない!いける?」

「任せてなの!」



「ええい、役に立たないエース部隊だ!」

ノーマルスーツのヘルメットを被りながら、カラスは怒鳴った。

彼の座るコックピットハッチが、ゆっくりと閉じる。

「アイザック、出るぞ!」

平たく広がる後頭部を持つハイザック、アイザックのド・ダイが唸りを上げる。

ゴーサインの音と共に、カラスのアイザックはヌービアムを飛び出した。

「ホント、これで負けてママに怒られるとか、あたしカンベンだからね!」

それに続いて出撃しようとするMA、ギャプラン。

「少尉殿、ヘルメット無しで出られるんですか!?」

それに乗る少女は、整備兵の言葉通りノーマルスーツこそ着ているが、ヘルメットを被っていない。

年の頃は10歳ほどか。長い金髪を、頭の上で巻いてまとめている。

「私は強化人間なの!吹っ飛ばされるよ!」

少女は整備兵の静止を振り払い、

「リファ・バスタルト、行っきまーす!」

発進した。

「増援が来た!?」

味方のド・ダイに相乗りし、後退しようとしていたハルカが、振り返って言った。

「増援?ミノフスキー粒子に紛れて、確認出来ませんが。」

「嫌な感覚、ただのパイロットじゃない。」

顔をしかめ、胸を押さえるハルカ。

「なら、マコト少尉といえども一人だけは危険です、援護を。」

ネモのパイロットが言う。

「でも、あなたは。」

「ここからなら自力でインベルに辿りつけます。自分が行くより、少尉殿がいらっしゃった方が戦力になりますからね!」

そして、ハルカにビームライフルとEパックを手渡す。

「分かりました。」

コックピットの中で、ハルカは力強く頷いた。

「では、御武運を!」

そう言って、ネモはド・ダイから飛び降りた。

「……待って!」

ハルカが叫んだその瞬間。

上からの閃光が、ネモを貫いた。

見上げると、ライフルを構えるハイザックが。

「ドダイから降りて、動きが遅くなるとなぁ!」

「そっちが落ちる!」

ライフルを振り上げ、ハルカはハイザックを撃ち抜いた。

「私が……迂闊だった!」

拳をパネルに叩きつけ、叫ぶハルカ。

涙を拭おうにも、ヘルメットのバイザーに阻まれる。

歯を食いしばり、反転。

「マコト!」

がら空きのミキの背中に、ライフルを撃ち込む。

だが、後ろを見ることも無くかわすミキ。

「こいつ、後ろに目がついてるみたいに!」

その隙にとマコトが撃ち返したバズーカすらも、ライフルで撃ち抜かれる。

「ああもう、2対1で!」

「本当、荒野の紅い妖精が大人気ないねぇ!」

瞬間、黄色の光芒がハルカをかすめる。

「モビルアーマー!?」

回避運動を取ると同時に、青いMA……ギャプランが脇を駆け抜けてゆく。

「速い!」

そして振り返る頃には、凄まじい加速度を物ともせず旋回を始めるリファのギャプラン。

「少尉殿、援護します!」

その背後にいたネモがライフルを放つが、

「甘いんだよ!」

両脇についたブースターを回転させ、リファは真後ろに向かってビームを放った。




「もう戦闘が始まってる!」

ミディアのコックピットで身を乗り出し、リョウは叫んだ。

「あの状況じゃミディアは突っ込めないわよ。」

「分かってる。」

睨みつけてくるユメコにリョウは頷き、第一ボタンを外す。

「とりあえず、味方の船に連絡をとらないと……」

「えっ、あー……」

リョウが通信機を取ったユメコを静止しようとするが、すぐに引っ込める。

「何よ。」

「いやぁ、あの……」

ゴリッ

必死に手を振りごまかすリョウの傍ら、固いものがかち合う音がする。

不思議に思って横を見やるリョウ。

視界に入ったのは、銃をユメコのこめかみにつけるエリと、冷や汗を流して両手を挙げるユメコだった。

「エリちゃん!?」

「連絡を取られたら、困るでしょ?」

そう言って、満面の笑みで銃をユメコのこめかみになすり付ける。

「そりゃあ困るけど!」

助けてと訴えかけるユメコの視線から必死で目をそらし、リョウは叫ぶ。

「リョウさん、まだですかぁ?」

その時、ハッチを開けて飛び込んでくる小さな影、アイ。

「リョウさんが説得するっていうから不安になってきてみれば、エリさんが全部解決しちゃったんですね!」

凄いです!と両手を組み、満開の笑顔を咲かせるアイ。

「アイちゃん的にこれはベターな解決策なの!?」

「だってユメコさんが黙ってくれたんだから、それで良いじゃないですか。」

「そういう問題じゃないでしょう!?」

「ああそうか、このままじゃエリさんが出撃できないですもんね、おーい!マナミさーん!オザキさーん!」

「違うって!」

リョウが引き留めようとするも、時すでに遅し。マナミとオザキがハッチから顔をのぞかせる。

「エリちゃん、やるじゃない!」

「良くやったわ、エリ。」

「………」

がっくりと肩を落とし、リョウは沈黙した。

「……全部、騙してたってわけね。」

その中、ユメコが口を開く。

「ごめん……急いでたから……もっと早く説明できれば良かったんだけど……」

うつむき、唇を噛むリョウ。

「本当にごめん、僕……ユメコちゃんに嘘を……」

「ああもう分かった!とにかく、連邦の艦に連絡したらだめなのね?」

「ユメコちゃん……」

「あんたを信頼する。終わったら、ちゃんと納得のいく説明しなさいよ!」

「あ……」

「ほら、分かったらさっさと行く!MS発進用意!」

そして、パネルを操作し始めるユメコ。

リョウは一瞬の躊躇いの後、

「分かった。」

それだけ言い残し、コックピットを後にする。

「これだと、もう着替えてる暇はない?」

格納庫へ繋がる通路で、エリが取り出した端末を見ながら言った。

「分かった、宇宙でもないし、ノーマルスーツは諦める。」

上着だけを脱ぎ、リョウは格納庫の扉を開けた。

[ハッチ開放するわよ、用意は?]

「待って、今コックピットを閉じる!」

[ハッチを開けたらまずはゲタを出すわ。空中で飛び乗れるわよね?]

「もちろん!ハッチ開けて!」

ミディアのハッチがゆっくりと開き、気圧差で格納庫内の空気が外へ逃げて行く。

外の光に映る、3機のMSとゲター。

[ゲター、リフトオフ!続いてMS発進!]

ユメコの号令とともに、ゲターが射出される。

「リョウ・アキヅキ、ジム・カスタム出ます!」
「アイ・ヒダカ、出撃ジム・キャノンⅡ!」
「エリ・ミズタニ、ジム・ガードカスタム、出撃します。」

半瞬遅れて、3機のMSが格納庫から滑り出た。

「僕が先行する、エリちゃんとアイちゃんは援護を!」

[[了解!]]

第五話-再開の風(前編)-【Blue Arcadia】

2010.04.25

category : Blue Arcadia 本編

comment(0) trackback(0)

「さて、」

月の表面……頭上に地球を拝む月面都市、フォン・ブラウン。

細長いビルが林立し、空を望めば人工の天井とガラス張り越しの宇宙が見える街。

「ここはどこかしらー?」

その街中、幅2mほどの路地でアズサが言った。

「アズサお姉ちゃんが近道知ってるって言うからついてきたのに……」

その隣、頭を抱えるアミ。大きくため息を付き、路地の壁に寄りかかる。

「私たち、迷子になっちゃたんですか?」

「迷子も何も、これでは道化だよ……」

不安そうに言うヤヨイの肩に手を置き、アミと瓜二つの姉、マミは大きく首をふった。

「とりあえず、この路地に入ったところに戻らないと……」

そう言って、一足先に駆け出すアミだったが、

「えーと、どうやって来たかしら?」

間の抜けたアズサの言葉に、盛大にすっ転んだ。

「一本道だったでしょ……」

舞う土煙、慌てて駆け寄るマミ。

そしてアミは生まれたての小鹿のように立ち上がり、大きくため息をついた。

「でもそろそろ行かないと、イオリちゃん怒っちゃうかも……急ぎましょう!」

腕時計を見て、飛び跳ねるヤヨイ。

待ち合わせの時間まで、あと十数分しか無い。

「それもそうねぇ。行きましょうか。」

アズサもコロコロと笑いながら、その後を追った。



【北米 地球連邦軍キャルフォルニアベース】

「ねぇ……リョウ……」

大型輸送機、ミディア改級のコックピットに乗ったユメコ・サクライが言った。

地球連邦軍の制服に身を包み、その長い髪はうなじで一つにまとめられている。

会話しながらも、MSのそれを遥かに越える数の計器をチェックし、適切なスイッチを入力するユメコ。

「何、ユメコちゃん。」

同じ連邦軍の制服に身を包んだリョウ・アキヅキが、ユメコの座る席に手をかけて言った。

ミディアの窓越しに見えるは、ガルダ級も楽々と離着陸出来る長く続く滑走路。

「なんか外が騒がしいけど、本当に大丈夫なの?ミッシング・ムーン隊の追撃って言ってたけど……」

と言いつつ、ユメコは天候、風速風向の確認を怠らない。

祖母の代から受け継いできた、大型航空機乗りの誇りだ。

天気は快晴。キャルフォルニアベース上空は高気圧に覆われ、抜けるような青空。

海からの風は無いとは言いがたいが、航行に問題はないだろう。

「だ、大丈夫だよ!皆ジョセフさん達が居なくなって慌ててるだけだって!」

リョウは笑顔でサムズアップするものの、その声は震えている。

「そうかしら……」

「そうだよ!ほら、早く行かないとジョセフさん達を追えなくなっちゃうよ!ジョセフさん達は間違ってるって、仲間の僕らが言いに行かないと……!」

ユメコはやたらに発進を急かすリョウに怪訝な顔をしながらも、

「分かったわ。信じる。」

操縦幹に手をかけた。

スロットルを浮上出力にまで開放、機内に駆動音が立ち込める。

「こちら、ミディア改級『ディアリースター』。発進オーケイ?」

[こちら管制室マナミ・オカモト。進路クリアー、発進どうぞ!]

ユメコが操縦幹を前に倒し、ミディアは発進。通常翼による浮力と、大出力ローターによって数秒で離陸した。

一年戦争時代のものよりもはるかに巨大なミディア改級だが、その出力も比ではない。とても3機のMSとド・ダイを積んでいるとは思えないほどあっという間に、キャルフォルニアベースが小さくなってゆく。

ミッシング・ムーン隊追撃のために、眼下にはロッキー山脈を、正面にはようやくコロニー落としの傷から立ち直りつつある大穀倉地帯を望み、ミディアは東南東に進む。

「現在ミッシング・ムーン隊はケネディポートに向けてカリブ海を北進中……ってことで良いのよね?」

北米大陸が拡大された地図を見ながら、ユメコは言う。

最後にミッシング・ムーン隊が発見されたのは、パナマ運河周辺。

「うん。ジャブローに降下したエゥーゴ部隊の目的地はたぶん、カラバの持つ最大の宇宙港、ケネディポート。」

リョウがユメコからタッチペンを受け取り、アメリカ大陸上の一点、フロリダ半島を指す。

「今回のジャブロー強襲はおそらく武力威示。そして、宇宙主義のエゥーゴが長く宇宙の戦力を手薄にしておくはずがない。」

モニターの表示がメルカトル図法から地球儀の3Dになり、ケネディ宇宙港から飛び立つシャトルの軌道を描く。

「地球慣れしてるミッシング・ムーン隊は、シャトル発射までの護衛ってワケね。」

地図を元に戻し、ユメコは唸った。

「で、私達はそれに接触して説得すると。」

ミディアの進路とアウドムラの進路が、カリブ海海上で交差する。

「うん。確かに、僕も最近の連邦のやり口は好きじゃない……でも、ジオンの残党に手を貸すなんてやっぱり間違ってるよ。」

握り拳をつくり、力説するリョウ。

その拳と瞳孔が微妙に揺れているのにも気付かず、

「あんたらしいわ。……嫌いじゃない。」

顔を背け、だが頬を染めて言うユメコ。

だが。

「あのー」

瞬間、後ろに現れる気配。

「うわばばばばばばえ……エリちゃん?!」

慌て握り拳を解き、ヒラヒラと振るリョウ。

「いつの間に……」

ユメコも、赤い頬を隠そうと正面に向き直り、操縦幹を握り直す。

「えーと、なんでここに……」

「うん、それは……」




「敵ガルダ級、インベルの回頭を確認しました!並走していたアウドムラは、加速しケネディへ直進します!」

眼下にカリブ海を望むヌービアム艦橋、オペレーターが叫んだ。

「やはり一隻は足止めに来る、か。」

[こちらはスードリ、こちらも向こうの動きを察知した。]

スードリからの通信、ブランのバリトンが艦橋に響く。

低く断続的なエンジン部の駆動音と、全速力の巨体に空気がぶつかり、鉄がひずむ音が響く。

[これよりスードリは加速してアウドムラに接近、ケネディポートからエゥーゴ部隊の大気圏離脱を阻止する!]

「了解です。反転したガルダ級の相手は、このヌービアムにお任せください。」

カラスが、平行して飛ぶスードリの艦橋に敬礼する。

並んで、チハヤ、ヒビキ、ミキも律儀な敬礼を送る。見よう見まねのカラスのそれとは違う、地球連邦軍制式の敬礼だ。

[ここまでの同行、そして援護に感謝する。]

そう言って、スードリの艦橋から敬礼を返すブラン・ブルターク。

[チハヤ・キサラギ、ミキ・ホシイ、ヒビキ・ガナハ。武運を祈っているぞ。]

「少佐も、お気を付けて。」

そして、ヌービアムを離れていくスードリ。

「ヌービアム、全速前進!インベルがスードリに取り付くようならロケットブースターの使用もある!」

手を振りかざし、怒鳴るカラス。

「ヌービアム全速前進!ようそろ!」

操舵手が復唱、怪鳥がその両翼を唸らせる。

「敵艦、相対速度60ノット!会敵まで約5分!」

「MS隊、発進準備!」

ヌービアムのMSオペレーターとなったユキホが、チハヤ達を振り返り言った。

その言葉を聞くや否や、艦橋を飛び出していくチハヤ達。

「うら若き乙女にして戦馬鹿か、不幸なことだな。」

3人の後ろ姿を一瞥、カラスは手を高く上げた。

「リファのギャプランも出すぞ!私のアイザックも用意しろ!」





[敵艦、スードリが進路変更!]

インベル艦橋。左舷砲台から報告が入る。

[本艦を相手にせず、アウドムラに向かっています!]

「それでこそ、予定通りです。」

艦長席の前に立ち、懐中時計を一瞥するジョセフ。

「MS部隊、アクト・オン!」

[来た来た、ジョセフ節!]

リック・ディアスのコックピット、マコトが嬉しそうに言った。

「ハルカ・アマミ、リック・ディアス、アクト・オン!」

ポーンという軽快な音と共に、勢い良くハルカが発進。

「マコト・キクチ、リック・ディアス、アクト・オン!」

マコトもそれに続く。

「ボクたちが先陣を切ります、ネモ隊は援護を!」

マコトはそう言い、

「いっけぇー!」

発進しつつある敵MSにバズーカを一発、二発と放った。

弾がはじけ、中から大量の破片が吐き出される。

高速の破片が、耐弾性を犠牲に機動力を重視したハイザックの動力パイプを貫く。

[ぐっ……こちらハイザック4番機、後退します!]

最も直撃に近かったハイザックが反転しようとした瞬間、

「逃がさない!」

ハルカの一撃が、その腹部を貫いた。

「動きを止める、迂濶な!」

爆発の煙を突き抜け、飛び出たるはチハヤ。

「チハヤちゃん!」

「ハルカ!」

互いにビーム一閃、距離を取る。

「チハヤちゃん、やめようよ!ティターンズに入ってまで、何をするの!?」

「私は地球圏の治安を守る!ハルカこそ、ジオンに、地球を汚した、私達の両親を殺したジオンに!」

「違う!」

ハルカの放ったビームが、チハヤのド・ダイを掠める。

「くっ!やはり射撃戦では、ハルカが!」

「エゥーゴは、そんな地球を汚すような組織じゃない!」

「7年、いえ、星の屑から4年、時が経つうちにジオンが善人になったとでも言うの!?ふざけないで!」

チハヤのライフルが火を噴き、ハルカは発砲と同時に回避運動を取る。

「エゥーゴはジオン公国とは違う!」

閃光が、チハヤのシールドを抉った。

舞い上がる爆煙。

「私達は、宇宙に住む人達にどんなことをしてきたかも知らないで!」

目に涙を溜め、ハルカは叫んだ。

だが、姿こそ見えないが、その研ぎ澄まされた感覚はチハヤの殺気を感じとる。

「なんで、チハヤちゃん!」

悲鳴に近い叫び。

ライフルの標準を、爆煙の中心に定める。

瞬間、爆煙を突き破って飛び出して来た、

「ド・ダイ!?」

閃光が、ド・ダイを貫く。

爆発、さらに増えた煙がハルカの視界を奪う。

「なまじっか、勘が良いだけに!」

真下からの閃光が、ハルカのド・ダイを貫いた。

「きゃあああっ!」

[ハルカ!]

悲鳴にマコトが振り返ったが、

[こっちの相手をしろ!]

ヒビキのビームが、それを阻む。

ハルカが他のネモに助けられたのを確認して、

「ああもう!」

バズーカを放つが、拡散しきらない至近距離の一撃をヒビキは難なくかわす。

「当たるものか!」

「こうも近いと……」

「なら、剣を抜け!」

ライフルを収納し、サーベルを抜くヒビキ。

ド・ダイ越しに戦えるほどに延びきった高熱の刃が、ディアスの装甲を掻く。

「くそっ!」

バズーカを乱射しながら後退するマコト。

「逃げるな!」

追加ブースターの推力全開で接近、機体が加速度と空気抵抗に悲鳴を上げるが、短時間なら問題は無い。

なおもマコトはバズーカで迎撃するが、当たらない。

「弾が切れたっ!」

舌打ちし、カートリッジを排出。

マコトが下がるよりも速く接近しつつあるヒビキの眼前に、カートリッジが迫る。

「ジャマだ!」

ヒビキは、サーベルを一閃。

「ひっかかった!」

まだ弾の残っていたカートリッジが、大爆発を起こした。

「なぁぁぁっ!?」

「光り物ばかりに頼るからそうなる!」

爆煙を突き抜け、マコトはバズーカの砲口をクゥエルの頭に叩きつける。

砕けるメインカメラ、散る火花。

バズーカのリロードは完了している。

無数の鉄塊が詰め込まれた弾丸が、頭部を貫いた。

第四話-重力戦線-【Blue Arcadia】

2010.04.16

category : Blue Arcadia 本編

comment(0) trackback(0)

「チハヤちゃん!」

ユキホが加速、炎に包まれていくチハヤ機へと向かった。

「チハヤちゃん、上に!」

コスモスがチハヤのクゥエルの下に滑り込み、ショックコーンがクゥエルを包む。

「こちらはこのまま降下します!ミキちゃんとヒビキちゃんはそのまま降下して地上部隊に連絡を!」

そう言い終わると同時に、プラズマの炎に阻まれて通信途絶。

ミキとヒビキは頷き合うと、全ブースターをパージしてバリュートを展開した。

ハルカはしばらくチハヤの消えた方角を見つめていたが、マコトに外部から強制的にバリュートを展開させられ、地球へと降下していった。

「チハヤ機とコスモスの軌道予測、完了しました。この軌道だと、ジャブローに降下します!」

オーバーマスターの艦橋、オペレーターがシジョウに告げた。

「ジャブローですか……それなら、安心ですね。」

ずっと肩をこわばらせていたシジョウだったが、報告を聞いて大きくため息をつく。

「敵艦は?」

「現行の軌道を維持、衛星軌道を回るもようです!」

「では、こちらは予定通り加速、グリプスに向かいつつジャブローにレーザー回線通信を開いてください。」




減速が終わり、バリュートを包んでいたプラズマの炎が少しずつ消えていく。

頃合か、とヒビキはバリュートをパージ、隣を見やる。

[ヒビキ!]

[ミキ、無事か!?]

互いに無事を確認し、下方に視線を送る。

眼下に広がる雲海、だが。

[下で……戦闘してるの!]

その先に、パラパラと起こる光。

[で、しかもアイツらが一緒に降下してきてる……]

そう言うヒビキの視線の先には、ハルカとマコトのリック・ディアスが。

[どうする……?]





「ネモ5番機中破!帰還します!」

ガルダ級輸送艦「インベル」艦橋。オペレーター席に座るショートヘアの女性が叫んだ。

その言葉通り、煙をあげて艦へ向かってくるネモが一機。

他の機体は、遠くに居るもう一つのガルダ級と、そのMSと交戦している。

「5番機の帰還によって戦力20%減……だめです、もう持ちませんよ!」

その隣に座る男が、額に汗を浮かべ叫ぶ。

「艦長、ここは引いた方がいいんじゃあ……」

さらにその隣、メガネをかけた女性が言った。

「なりません!我々がここを引いたことろで、大気圏に再突入し、ジャブローを脱出して疲弊しきった部隊の犠牲を増やすだけです!」

艦長席に立つ初老の男性が、歯をくいしばって言う。

「しかし……」

眼鏡の女性が、次々と増えていく艦の損傷個所を目で追いながら言った。

「まだ、なのですか……!」

懐から懐中時計を取り出し、歯ぎしりをする艦長。

その時。

「0方向より熱源4!MSと思われます!雲とミノフスキー粒子で識別信号は確認できませんが……」

雲を突き抜けて二本の光が走り、それぞれがネモとハイザックを撃ち抜いた。

「なんですと!」

艦長……ジョセフ・シンゲツが驚いて顔を上げた。

「識別信号確認、エゥーゴとティターンズ、2機ずつです!」

[こちらエゥーゴ765隊、ハルカ・アマミとマコト・キクチです!]

雲を突き抜けて、パラシュートを展開したハルカ機とマコト機が現れる。

「こちら連邦軍……おっと、今は裏切りの身、カラバのギョクト隊です。援護、感謝します。」

通信機の向こう、見えない相手に向かって律義に敬礼するジョセフ。

[ボクのディアスはこのまま戦闘可能です!ド・ダイの射出を!]

[私は腕をやられていて無理です!ネモの予備は?]

「分かりました、ソレワさん!」

ジョセフが頷き、ショートヘアの女性、ソレワに言った。

「了解、ド・ダイ射出!未来座標送ります!ハルカさんはそのまま後部デッキへ、ネモに乗り換えてください!」

ガルダの後部デッキから、MS用のサブフライトシステム、ド・ダイが射出される。

[了解!]

[マコト、ド・ダイに乗ったままじゃ格闘戦はできない!]

ド・ダイとの合流ポイントに向かうマコトに、ハルカがビームピストルを投げた。

「ありがとう!」

ピストルを受け取ったマコトはバリュートのブースターで減速、飛んできたド・ダイに飛び乗った。




「当たったの!」

雲を突き抜け、姿を現すミキとヒビキのクゥエル。

[ティターンズの船は……あれか!]

濃紺と黒、いわゆるティターンズカラーのガルダ級を見て、ヒビキが言った。

「こちらティターンズ961隊、ヒビキ・ガナハ少尉!そこのガルダ級、回収を頼む!」

[こちらはティターンズ、バスタルトニュータイプ研試験大隊『トゥリアビータ』です。回収準備はできています、しかし、3機編隊と聞いましたが。]

「一機は突入時の戦闘ではぐれた!救助にも向かいたいがとりあえずは無事だろうし話は後だ、補給を!」

[分かりました。後部ハッチが開いています。]

「了解!」

ヒビキとミキはそう言うとパラシュートをパージ、ガルダの後部へと潜り込み、デッキに飛び乗った。

そしてバリュートもパージ、整備用のハンガーに機体を固定。

多くの整備兵が機体に取りかかる中、ヒビキとミキはコックピットを降りた。

「ぷはっ!」

ヘルメットを外すと同時に、ヒビキの長い髪が溢れ出る。

「地球の重量も久々だなぁ……ミキ、大丈夫か?」

ヒビキがミキを振り替える。

「空気は良い匂いだけど、胸が重いの。」

同じくヘルメットを外し、不機嫌そうにポニーテールの髪をいじるミキ。

「それ……チハヤの前では言わない方がいいぞ……」

苦笑するヒビキ。

「ティターンズきってのエース部隊だと聞いていだが……女なのかよ……」

そんな会話を交わす二人を見て、兵の一人がそう呟く。

それを一睨みし、

「艦長はどこだ!補給中に話がしたい!」

ヒビキが叫んだ。

「ここです。」

それに応え、人混みを分けて現れた一人の男。

鋭く細い目に短い髪、中肉中背の身体に、コートをまとっている。

「トゥリアビータNT研究所、所属部隊長のカラス・グランドロッジです。ようこそ、『ヌービアム』へ。」

そう言って、握手をと手を差し出すカラス。

「よろしく……お願いします。」

ヒビキは敬礼しようとした手を戻し、握手する。

「我々は実験部隊。正式な階級は与えられておりませんし、ティターンズの士官殿が敬語を使うほどの者でもありません。お気になさらず。」

「分かった。……まず、補給はどれくらいで済みそうだ?」

「合流は予定通りでしたので、追加ブースターは既に用意はしてあります。……しかし、仲間を助けないでよろしいのですか?」

「ユキホ……オペレーターも一緒だし、チハヤなら放っておいても大丈夫だ。」

「なるほど、信頼の賜物ですね。」

毅然と言うヒビキに、カラスは苦笑する。

「ミント級と一緒だから、最寄りの基地くらいまでには行けるはず。戦闘が終わったらオーバーマスターとコンタクトを取って、効果予想地点付近の基地に連絡を取ろう。」

「分かりました。」

恭しくカラスが礼をした、そのとき時、

[艦長!今すぐ艦橋にお戻りください!]

艦内放送が響き渡る。

「どうした!」

携帯端末を取り出すカラス。

[敵に増援が二機、我が方のMSを次々と……!]

「あいつらだ!」

端末をのぞき込み、ヒビキが怒鳴る。

「エゥーゴの部隊、ですか……」

「自分達はクゥエルで待つ!補給を急いでくれ!……ミキ、起きろ!」

ヒビキが、会話の間に立ったまま寝ていたミキを叩き起こす。

「あふぅ……ミキ眠いの。」

「ああもう、チハヤがいないといつもこうだ!」

忌々しげに地団太を踏み、

「ミキ!エゥーゴに地球を汚されて良いのか!?」

ミキの肩を掴み、怒鳴るヒビキ。

「それは嫌なの!」

するとミキは目を見開き、肩を掴み返す。

ヒビキは大きくため息をつき、

「行くぞ、出撃だ!」

ブースターの換装作業を終えつつあるクゥエルに駆け寄り、昇降機でコックピットへ。

「分かったの!」

ミキも慌ててそれに続く。

「シャワーくらい浴びたかったのに……」

苦い顔でパネルを操作、ヘルメットを被るヒビキ。

「少尉殿、換装終わりました!」

コックピットを閉めようとしたところで、整備兵の一人が顔を覗かせ敬礼する。

「ありがとう!」

ゆっくりと閉まるコックピット、暗闇に包まれたのは一瞬で、次々にモニターが外の景色を映し出していく。

[現在の戦況、送ります!]

ブリッジから送られてきた戦況。今まで優勢であったティターンズ部隊が、ハルカたちによって次々と撃破されている。

戦況を確認しながら、それぞれ別のド・ダイに乗り込む二人。

「ヒビキ、出るぞ!」
「ミキ、行きます!」

掛け声とともに、ド・ダイに乗ったクゥエルが飛びだす。

「そこっ!」

同時、ハルカのネモが放ったビームがハイザックを貫いた。

「ハルカ、増援だ!……あのクゥエル!」

ビームピストルを乱射しながら、マコトが言った。

「やっぱり出てきた…!」

突進してきたハイザックをかわし、ビームサーベルを投げつけるハルカ。

サーベルはコックピットに突き刺さり、ハイザックは爆散する。

その爆炎を突き破ったハルカが狙いを定め、発砲。

「甘いの!」

ミキはそれを難なく回避、反撃した。

「ミキ、大丈夫か!」

「ここは任せて欲しいの!チハヤさんを困らせた奴は許せない!」

そう言って、ミキはハルカに突進していく。

「それは自分も同じだけど……なっ!」

言いかけて、ヒビキは自分を狙う別のネモに気付いて発砲、撃墜。

「ハイザック部隊、ネモを抑えてくれ!自分達はエースをやる!」

振り向きざまに、黒いリック・ディアス、マコトに向かって突進する。

「うおおおおおおおおおおおっ!」

「くそっ!」

マコトはヒビキの放つビームを全てかわしこそするが、反撃に連射するビームは完全に的外れな方向に飛んでいく。

「見た目は派手でも!」

盾を構え、追加ブースターの推力を存分に活かし、まっすぐに突っ込んでくるヒビキ。

「ああ、もう!」

ついにマコトは、いっこうに当たらないビームピストルを投げ捨てた。

それを見て、ヒビキもビームライフルを収納する。

両者同時に、ビームサーベルを抜刀。

「うおおおおお!」

「はあああああ!」

交差。

盾を持ったままのヒビキよりも、サーベル一本のマコトの方が一手早かった。

サーベルがクゥエルの盾を切り裂き、さらにはその奥の

「な……!」

空を、切った。

下方には飛び去るド・ダイ、上方には跳び上がったクゥエル。

このままでは背中を取られ、狙い撃ちされる。

そう思ったマコトは、慌てて前方へ距離を取った。

だが、次の瞬間。

「あの状態から反転出来る!?」

全力で前進するディアスに張り付いているクゥエルを見て、恐怖の声を上げるマコト。

「追加ブースターは伊達じゃない!」

全身の血が偏るような凄まじいGを感じながらも、ヒビキはサーベルを振りかぶった。



「あなたは何でチハヤさんを困らせるの!?」

ライフルを構えたまま一定距離を保ち、回り続けるミキとハルカ。

一見すると怠慢な動きだが、動きを止めれば狙い撃たれるという緊張感が装甲越しに張りつめている。

「そこっ!」

ハルカが発砲するが、ミキは急転換して回避した。

「やっぱり読まれてる!」

再び発砲するも、今度は避けられたばかりか的確な反撃が飛んでくる。

だがハルカもそれをなんなく回避、再び睨みあいに。

「「やっぱり……ニュータイプ!」」

見つけたくなかった共通点。だが、異常とも言える反応速度は明らかにニュータイプのそれである。

「チハヤさんは、チハヤさんは、いつも頑張ってるの!」

再び飛んできたビームをかわし、ミキが叫ぶ。

「チハヤさんのお友達なら、なんでチハヤさんのことを助けてあげないの!?」

「あたし……だって……!」

叫び、やけくそ気味にビームライフルを放つハルカ。

「う……!」

ハルカから放たれる気迫。反応が遅れ、ミキのド・ダイをビームがかすめる。

損傷、バランスを崩すド・ダイ。

「これで……」

その隙にハルカはライフルの銃口を、マコトに向かってサーベルを振りかぶるヒビキに向けた。

「ぐっ……」

ヒビキは慌てて上昇するが、ビームが右脚を直撃する。

「うわあああっ!」

「ヒビキ!」

墜落するヒビキを追うミキ。

だがすぐに、ヒビキも体勢を立て直す。

「ヒビキ、大丈夫なの!?」

「なんとか……」

ミキのド・ダイに掴まり、爆発を避けて火花を散らす右脚を切り離す。

「戦えそうにはないけど、な……」

「いったん船に帰るの!」

そう言って、ヌービアムへと踵を返すミキ。

「逃げる?!」

ハルカが追いかけようとするが、

「深追いしない方が良い!」

マコトはそれを引き留めた。

「でも……」

「数が違いすぎるし、あいつらと戦い続けたらこっちが不利だよ!」

瞬間、ビームがハルカとマコトの間を走り抜ける。

言葉通り、目の前にはまだ多くのハイザックが。

「ああ、もう!」

大きく首を振り、ハルカはビームライフルを撃つ。ビームはハイザックのうちの一機の腹部を直撃、撃墜した。





[ヒビキ機、ミキ機帰還!ミキ機は無傷ですが、ヒビキ機は右足を爆損していて戦闘継続は不可能です!]

[戦力損耗率算出中……再び味方が各個撃破されていっています!]

艦橋からの報告を聞きながら、カラスは格納庫へ続く廊下を歩いていた。

「被弾していない方の機体をすぐに出させろ。リファの様子とギャプランの整備状況は!」

[リファは出撃可能ですが、ギャプランは後方モニターの問題がまだ解決していません。それに伴って1G下ではバランサーにも問題が……]

オペレーターの言葉にカラスは小さく舌打ち、

「……やむを得ん、撤退だ。信号弾を打ち上げろ。」

静かに言った。

[了解しました。]

「全く……何がエース小隊か。」

格納庫の扉を開け、吐き捨てるように言うカラス。

「どうでしたか、初の重力下戦は。」

苛立ちで歪んでいた顔を整え、クゥエルを降りていたミキとヒビキにカラスは言った。

「ごめんなさいなの……」

「すまない……」

うなだれる二人。

「困りますよ、ティターンズきってのエース小隊と名高い貴女達がそんなことでは。」

腕を組み言うカラスに、ヒビキとミキは何も言えない。

「次からの戦果を、期待しています。」

そう言い放ち、ブリッジへと踵を返すカラス。

うつむく二人を尻目にハイザック部隊は次々と着艦し、ヌービアムは進路を変えた。




【一時間前】

空力摩擦で機体は小刻みに揺れ、少し手を伸ばせばショックコーンの外のプラズマの嵐に触れられそうな状況。

チハヤは、ユキホの大気圏突入艇、コスモスの上に乗って成層圏を降下していた。

「本当にありがとう、ユキホ。」

機体の損傷をチェックしながら、チハヤが言う。

「ううん、大丈夫。」

微笑み、高度計と機外温度を確認しながらユキホは言った。

「突入回廊に入る前の急激な機動……迂濶だったわ……」

頭を抱え、唸るチハヤ。

「チハヤちゃん……」

完璧主義のチハヤにとって、その行動は確かに迂濶であっただろう。だが、問題はそこではないはず。

……触れない方が、良いのかな……?

ハルカの名を出すべきか否か、ユキホが逡巡していると。

「で、ユキホ。このままだとどこに降下することになるの?」

妙に明るいチハヤの声。

……やっぱり、無理をしている。

「……ユキホ?どうしたの?」

……そんなことより、ハルカちゃんは? そう聞くことができない自分が歯がゆい。

「……ううん、大丈夫。」

……結局、自分にはどうすることもできないのか。

ユキホは諦めたように首を振ると、

「えーと……このままだと、緯度…西経…ジャブロー直上で対流圏に出られるはず。」

予想航路を接触回線で転送した。

「ジャブローに?……降りてからどうしようか心配してたけど、これなら安心ね。」

ユキホから送られてきた予想航路。通常の突入艇ならジャブローから大きく外れてアンデス山脈に突っ込む航路だが、サブフライトシステムとしても機能するコスモスなら問題はない。

「うん、オーバーマスターにも降下先の部隊にも、すぐに連絡がつくと思う。」

ユキホもコスモスを大気圏突入用モードから大気圏航行用のそれに切り替え、対流圏突入に備える。

機体を包んでいたプラズマが晴れていき、眼下にジャブローの密林が広がる。

「何……これ……?」

……はずだった。

下に広がっていたのは、一面の雲海。

それも、真っ黒な。

「雨雲……いや、違う……」

雨雲が黒いのは、太陽光のを遮っているから。遮る物の無い太陽光が直接降り注いでいる水滴と氷塊の集合が、黒いはずなど。

「戦闘のせい……?」

ユキホが呟くが、

「まさか、エゥーゴのMSが全滅したってこんなことには……」

ひきつった顔で首を振るチハヤ。

「それだけじゃない、凄い上昇気流……」

ユキホの言葉通り、先ほどから大気圏突入の小刻みなそれとは違う大きな揺れが機体を襲っている。

「突破できるかしら?」

「たぶん出来るけど……念のためにブースターの準備はしておいて。」

「分かった。」

機体制御系統を大気圏モードに切り替え、操縦桿を握り直すチハヤ。

そして、ゆっくりと雲に突っ込むコスモス。

機体の周りが黒い煙に包まれる。見ると、ところどころに火の粉すら。上昇気流に翻弄されそうになるコスモスを、ユキホは必死に抑えつけた。

それでもなお収まらない激しい乱高下。視界も無いために、振り落とされれば頼りになるのは機体の高度計と水平計のみ。チハヤは必死でコスモスにしがみつく。

「あと……少し!」

ついに雲を突き抜けるコスモス。

眼下に広がっていたのは、一面の焼け野原。

かつてジャブローの中心地があった場所を中心に巨大なクレーターが出来ており、アマゾンの大河が流れ込んで湖となっていた。

未だに淵の部分は高熱なのか、蒸気の立ち上る湖。

周辺の木々に火は燃え広がり続け、止まる気配は見えない。

煤煙と蒸気、それらが混じりあってそびえ立つ、きのこ雲。

地獄絵図とはこのことか。

「気化弾頭……なのかな。」

ユキホがゆっくりとヘルメットを外そうとするが、

「待って!」

チハヤが叫ぶ。

「ヘルメットを外してはだめ。バイザーも上げないで、気密をもう一度確認して。」

「チハヤ……ちゃん?」

怪訝に、モニターに映るチハヤの顔を見るユキホ。

そのチハヤの視線の先、唸りを上げる、あるメーター。

もともとコロニー治安維持用に作られたクゥエル。支給された時は数々のセンサー類に驚いたものだが、

その中で今、耳障りな唸りを上げているメーター。

α、β、γの3つの表示。

「核……これもエゥーゴの仕業……」

ガイガーカウンター。

「……とりあえず、最寄りの基地に行こう。」

震えるユキホの言葉に、チハヤは歯ぎしりで返した。




【カリブ海上空】

「お久しぶりです、ジョセフさん!」

ガルダ級輸送艦『インベル』の艦橋、ハルカは元気良く敬礼した。

「いやぁ、お久しぶりですアマミさん。星の屑以来でしたかな。」

敬礼を返し、手を差し伸べるジョセフ。

「あの時は、ご迷惑をおかけしました。」

そしてその手を握り返したハルカに、深々と頭を下げた。

「もう、まだその事気にしてるんですか?」

ハルカの後ろから、マコトが気楽に言う。

「ボクらも連邦のやり口に腹が立ってそっちに加勢したんです、気にしないで下さい。」

「……ありがとうございます。」

英国紳士のような優雅さで礼をするジョセフ。

そして後ろを振り返り、

「では、もう紹介は不要ですね。」

春香は大きく頷き、

「はい!ナラバさん、」

黒一点を指差して、

「ソレハさん、」

ショートカットの女性を、

「……えーと……」

眼鏡の女性を指差して、動きが止まる。

「ナゼです!なんで私だけ忘れるのよ……」

「ああ、そうでしたそうでした。あははは………」

「先輩、だいたいの人に一度で名前覚えてもらえませんよね。」

「うるさいっ!」

からかうショートカットの女性……ソレハに猛然と噛みつくナゼ。

「マコト!元気してたか!」

「ナラバさんこそ!」

片や、マコトとナラバは元気良く手を打ち合う。

「マコトさん、また彼に、空手でも教えてやってください。私の指導は、どうも分かりにくいようで……」

「隊長の肉体言語で分かるわけないじゃないですか……」

「分かりました!」

肩を落とすナラバに、マコトはガッツポーズをとった。

「……お変わりないようで、本当に何よりです。」

ジョセフは微笑み、

「そういえば、もう一人……キサラギさんは……」






【地球連邦軍 カリブ基地】

「大尉殿、グリプスのオーバーマスターとの回線、繋がりました!」

基地の指令室。一人の下士官が、受話器のようなものを持ってチハヤに駆け寄った。

「もしもし、中佐ですか?」

そのレーザー通信回線の受話器に向かって言うチハヤ。

[キサラギ大尉……無事で何よりです。]

「ありがとうございます。」

目の前にシジョウがいるかのように、律儀に敬礼する。

「ヒビキやミキも降りて早々、ハル……我々と共に大気圏を突破した部隊と一戦交えたようです。補給を兼ねてこの基地で合流、追撃をします。」

[……ハルカ・アマミ、ですか?]

唐突なシジョウの言葉に、チハヤは動きを止めた。

「何故……それを……」

[ホワイトベース部隊、 そして765独立小隊。一年戦争の代から地球連邦軍に属する者で、知らぬ者は居ません。]

「でも、それがあの部隊だとは……」

[……まぁ、詳しいことは、ユキホに聞いたのですが。]

そして、通信の向こうでシジョウが笑う。

「なかなか通信が繋がらないと思ったら……!」

[彼女も貴方のことを心配していました。気にするな……とは言いませんが、貴方なりの答えを見つけなさいな。]

「しかし、このままでは作戦行動に支障をきたしてしまうかも」

[貴女なら大丈夫でしょう。『蒼い鬼神』の二つ名は、伊達だったのですか?]

「……いえ。」

「貴女なら大丈夫です。真実を……いえ、これは蛇足ですね。とにかくも、本領、地球での戦果を期待しています。」

「……?分かりました。チハヤ・キサラギ大尉、地球でのエゥーゴ討伐任務に邁進します!」

指令室のど真ん中で完璧な敬礼を披露し、チハヤは通信を切った。

その時である。

「大尉殿、ヌービアムが到着しました!」

指令室の扉を開け、一人の兵士が入ってきた。





「チハヤさんっ!」

ヌービアムのタラップの手すりを乗り越え、ミキはチハヤに抱きついた。

「ミキ、ヒビキ、大丈夫だった?」

肩に頭をうずめるミキを抱き返し、チハヤは微笑む。

「あたりまえだぞ!……って言いたいところだけど、やられた。」

「MSは直せるじゃない。貴方達が無事なのが何よりよ。」

チハヤの隣に並んでうなだれるヒビキ、チハヤは慰めるようにその肩を撫でた。

「チハヤさんも、無事で何よりなの!」

「ユキホのおかげよ。彼女がいなければ、どうなっていたことか。」

「別に、私は何も……」

微笑むチハヤに、ユキホは大きく首を振る。

その時、

「チハヤ・キサラギ大尉殿ですね。」

タラップの上、カラスが言った。

「貴方は?」

「カラス・グランドロッヂ。トゥリアビータニュータイプ研究所の者です。」

「トゥリアビータ……あのゲリラ上がりの?」

怪訝な顔を向けるチハヤに、

「これは手厳しい。」

苦笑するカラス。

「ごめんなさい。それを言えば、ティターンズの大半は温室育ちの頭でっかちね。」

「しかし貴方達は違う。新しいMSの支給もありますよ。」

カラスは微笑んだ。

「本当か!」

チハヤこそ表情を崩さなかったが、カラスの言葉にヒビキとミキの顔が輝く。

「この基地に用意させています。あちらへ。」

タラップを降りたカラスが、すぐ近くの格納庫を示す。

「クゥエルの性能チェックは、もう良いの?アレも確か、トゥリアビータ研の開発した機体だったはずだけど。」

「実質上それの引継ぎ、とでも言いましょうか。あの機体の追加ブースターはオークランド研が開発して、本来は今からお見せする機体の為に作られたものです。他の部分の完成が間に合わず、我がトゥリアビータ研がオーガスタ研のクゥエルに装備して性能を見ることにしたのですが……。」

そこでカラスは言葉を切り、

「大尉殿ならお分かりのはずです、クゥエルの機体はあのブースターの最大出力に耐えられません。」

「……やっぱり。」

「いやはや、お恥ずかしい。しかし今からお見せするのは完成品です。」

そう言って、格納庫の扉を開けるカラス。

「ORX-005、ギャプラン。オークランド研もオーガスタ研も実戦に関しては門外漢だったようで、我々に改良の協力を頼んできましてね。テストベッドを用意する代わりに、一機提供を受けました。」

そう言って、カラスはチハヤに鍵を渡した。

格納庫の最奥、そびえるように立つ一機のMS。

頭頂高こそ他のMSとさして変わらないが、961のクゥエルと同じ巨大な背中のブースターと、両腕についたブースターが機体を一回りも二回りも大きく見せている。

「これが……」

巨大な機体を見上げながら、歩み寄るチハヤ。

だが。

「おい、あれが……」

小さな声で、だが広い格納庫にしっかりと響く、整備士達の声。

「ああ、女だけの部隊、本当だったんだな。」

「任せられるのか?」

辺境の連邦軍基地。それでいて、連邦の本丸であるキャリフォルニアベースとジャブローに挟まれ、長くジオンの脅威もなかった場所。

そんなところに配属された兵士達の錬度、士気、質など、推してはかるべきものである。

それを知ってか、チハヤは不快そうな顔をしつつも黙っているし、ヒビキも何かを言おうとしたミキの口を抑える。

「さぁな。」

「耐えられる重力加速が段違いだろう……」

「でも、良い体してるじゃねぇか。なかなかの上物だぜ。」

「本当だ。俺の好みは金髪の方だな。」

「でも見てみろよ、あの女の胸は男」

「不愉快です!」

無機質な作業の音をかき消して響き渡ったのは、チハヤの声。

あーあ、と言わんばかりに額を抑えるヒビキ。

「……チハヤ大尉?」

突然の罵声に、首を傾げるカラス。

「不愉快だと言っているんです!」

チハヤは大仰に振り返り、

「モノアイが気に入りません!なんですかこれは、まるでジオンの機体ではないですか!」

「いや……しかしモノアイは優秀な複合センサーとして……」

「それでもです!」

すさまじい勢いでカラスに歩み寄り、鍵を突っ返す。

「はぁ……」

困り顔で、それを受け取るカラス。

「整備さえしていただければ、クゥエルで十分に戦えます。」

引きつった顔で、チハヤは断言した。

「……分かりました。もともとチューンアップをする予定でしたし、それまでこちらで預かります。」

やれやれ、と溜息をつき、カラスは鍵をポケットにしまった。

「チハヤちゃん……」

「止めないでユキホ。これは私の問題よ。」

「あう……」

ユキホが恐る恐る歩み寄るが、それを睨み返すチハヤ。

そのまま振り向きもせず、チハヤは格納庫の外へ歩いて行った。

「なぁ……本当に大丈夫なのか?」

チハヤが遠くに行ったのを確認して、ヒビキはカラスに耳打ちする。

「機体の実験はブラン・ブルターク少佐の隊でも行われますから、問題ないでしょう。」

小さくため息を付き、肩をすくめるカラス。



「あれは…ヌービアムの他にもガルダが……」

小さな基地の滑走路に、狭ぜましく並ぶ二隻のガルダ。

格納庫を出たチハヤは、もう一機のガルダに歩み寄る。

濃紺のヌービアムに対し、鮮やかな緑のガルダ。

「ガルダ級一番艦、スードリだ。」

その時、後ろから聞こえる低い声。

「ブラン少佐?!」

嬉しそうに微笑み、チハヤは振り返った。

「久しぶりだな、チハヤ・キサラギ。お前が宇宙に上がる前に、ジャブローで会って以来か。」

「はい、お変わり無いようで。」

さっきまでの態度とは打って変わり、チハヤは丁寧に礼をする。

「聞いたぞ、お前もニタ研の実験に付き合わされるらしいな。」

「はぁ……」

「俺もアッシマーだとかいう、よく分からん機体を掴まされた。これから慣らし運転もせにゃならん。」

心底ウンザリしたような顔のブランに、今しがたそれを蹴ってきたとは言えないチハヤ。

「ティターンズに入った途端、人工ニュータイプの実験に付き合わされ、新機体の実験台にされ、その上カラバを追えと来たもんだ。楽なゲームじゃねぇぜ。」

そんなチハヤに気付くはずもなく、ブランは自分の苦難を指折り数える。

「少佐ならできますよ。」

「当たりめぇだ。」

微笑むチハヤに、ブランは鼻を鳴らしてそっぽを向く。

「……それにしても強化人間ってのは、所詮ニタ研で飼われてた実験体みたいなもんだろ。そんなもんに頼るようになったとなれば、連邦もいよいよだな。」

そう言って、自身の制服の襟についた連邦旗章をいじる。

「少佐、そんなこと」

チハヤが顔をしかめるが、

「分かっているよ。宇宙人は、宇宙に居ればいいんだ。」

拳を鳴らすブランに、安心したように微笑んだ。

「お前のところにも強化人間がいるらしいじゃねぇか。せいぜい振り回されないように頑張れよ。」

そして、スードリへと去っていくブラン。

「少佐も、御武運を!」

その後ろ姿にチハヤは踵を揃え、律儀に敬礼した。
プロフィール

リンゴ・t

Author:リンゴ・t
アイマスが好きです、でもガンダムは人生です。

im@s架空戦記「宇宙駆ける蒼い鳥」好評連載中!

その他にも雑記、オリジナル小説上げるかも。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

Copyright ©林檎亭. Powered by FC2 Blog. Template by eriraha. Photo by sozai-free 2000px.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。